箒作りの技術を守りつづけたい

5年後、10年後を見据えると、決して楽な状況ではない。それでも高倉社長は前を向く。

「大量生産できるわけではないから、そんなに儲かる商売ではありません。適度なニーズを確保して、ほどほどに販売する。これを継続することが大切。でも、私にとってはビジネスを拡大するよりも、この技術が廃れないようにしていくことを優先したい。そのためにはやはり人なんです」

この30年間は苦労の連続だったが、高倉社長に悔いはない。

一度使えば南部箒の魅力に気づいてくれる。高倉さんは「きっとほしくなるはず」と胸を張る
撮影=プレジデントオンライン編集部
一度使えば南部箒の魅力に気づいてくれる。高倉さんは「きっとほしくなるはず」と胸を張る

「辛いことはたくさんあるけど、夢を持てば実現できることも知りました。まさか私がヨーロッパに3回も行けるとは思ってもいなかった。たとえ田舎の箒屋でもきちんと仕事をすれば、どこへでも行けるのだなと実感しました」。この思いや体験を若い人たちにも伝えていきたいし、ぜひとも味わってもらいたい。高倉社長は切にそう願っている。

九戸村から世界へ南部箒を広める――。コロナ以前に抱いていた夢を、高倉社長は決してあきらめてはいない。機が熟せば、再び海外での営業活動に乗り出すつもりだ。コロナ禍でもその準備は着々と進めてきた。ECサイトの英語版を立ち上げたところ、米国などから年に数件の注文が入っている。

「日本でも外国でも関係なく、お客さんの目の前で実際に南部箒を使って見せれば、興味を持ってもらえる自信はありますよ。特にヨーロッパの人たちは無農薬の素材で作られて、かつ長持ちする箒の特長がしっかり伝われば、きっとほしくなるはず」

今までにない挑戦を成し遂げるため、志を持った仲間とともに高倉社長は今日も最高品質の箒作りに全身全霊を込めている。

高倉工芸のスタッフ
撮影=プレジデントオンライン編集部
九戸村から世界を目指す挑戦はこれからも続く
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