他方、南部箒は大切に使えば20年、30年は持つ。1本の値段は確かに高額だが、圧倒的なコストパフォーマンスの差がある。高倉社長は「箒vs掃除機ではなく、お互いの長所・短所を補うことが最も良い方法だ」と語るが、筆者たちに、南部箒で絨毯を掃いて見せる表情は誇らしげだった。

20年、30年使い続けられるからこその悩み

この耐久性は南部箒の強みであるが、作り手にとってはメリットばかりではない。商品が長持ちすると買い替え需要がほとんどなく、1世帯に何本も売るのは難しい。だからこそ、そこで痒いところに手が届くような商品開発が重要になってくる。

高倉工芸では用途別の箒のアイデアを常に検討している。そのために顧客の声にも耳を傾ける。そこから生まれた商品がペット用のミニ箒である。

撮影=プレジデントオンライン編集部
持ち手に足跡がデザインされたペット用箒。倉庫には様々な大きさの箒が保管されていた

「動物用の箒を作ってと言われた時に、最初は冗談を言われていると思って相手にしなかったんです(笑)。でも、何度もお願いされるものだから、じゃあやってみようと着手しました」

主に犬と猫の毛をブラッシングする箒として販売した。初年度は100万円ほどの売り上げがあって、これはいけると思ったそうだが、それ以降は苦戦が続いている。原因として、猫は特段問題ないが、犬は犬種によって毛並みが違うので、合わないことも多々あるそうだ。また、大型犬だとおもちゃだと勘違いして、箒をかじり壊してしまうことも少なくない。

ただ、意気消沈してはいられない。定番の長柄箒でもカラーバリエーションを変えたり、卓上の掃除用や洋服の毛玉取り用の箒を開発したりと、現在はおよそ50種類まで商品ラインナップを広げている。

長柄箒は55万円
撮影=プレジデントオンライン編集部
55万円の長柄箒。穂先の縮れが強く、密度が高い
3万円台の箒もある
撮影=プレジデントオンライン編集部
3万円台の箒もある。同行した編集者が購入し、ダイソンの掃除機と一緒に愛用している

工芸品ではあるものの、あくまでも顧客のニーズを汲み取る努力が不可欠だと高倉社長は繰り返し強調する。

「現代の生活に合った使い方をこちらでも見つけて、提案していかないと。だからペット用にも挑戦したのです。今までの伝統をそのまま商品にしても売れませんし、消費者側を変えようと思っても無理ですよ。押し付けるのではなく、お客さんがほしいと思うものを作らないといけない。私たちがやっているのはアート作品の制作ではなく商売。使ってもらってなんぼの世界です」

高倉社長が今温めているアイデアは、すべて岩手県産の原材料で作る箒だ。地域ブランドとしてもっとアピールしたいと意気込む。