「人は昼間に活動するために眠る」と捉える

リタイアして自由な時間が増えると、「さあ、これからは好きなだけ寝られる」と思う方は多いと思います。そんな方に「眠る必要性は若い頃より減っているのです」といっても、なかなか納得してもらえません。

栗山健一『60歳からの新しい睡眠習慣 「眠れない」ことへの過剰な不安を解消』(河出書房新社)

たしかに睡眠は大切です。しかし、私たちの毎日の生活の目的は、昼間の時間を楽しく有意義に活動することであって、眠ることではありません。

睡眠とは、そもそも「必要悪」である。そう捉え直してみませんか。昼間活動するために、体が要求するだけ心身を休めるための受動行動、それが睡眠なのです。

また、睡眠に多くを期待しすぎるのもよくありません。加齢とともに運動・内臓機能が衰える、体の調子が悪くなる、これは誰もが避けられない自然なことです。

健全な眠りが健康に欠かせないのは確かですが、「体調が悪いのは眠れていないせい、たくさん眠れば健康になれる」と思い込み、必要以上に眠ろうとすると、かえって健康を害する結果になり得ます。

「眠れない」と「不眠症」の決定的な違い

国際的な睡眠障害の診断基準では、寝つけない、夜中に何度も目が覚めてしまう、朝早く起きてしまう、などの不眠症状だけでは不眠症として扱わない、と明記されています。つまり、疾病しっぺいとはみなさないということです。

「眠れない」だけでなく、それによって、日中に何らかの機能障害が生じるようになって、初めて「不眠症」と診断されます。機能障害とは、主に睡眠不足による眠気のせいで、日常生活に支障をきたすことをいいます。

つまり、「眠れない」ことの背景に、必要な睡眠量を不眠症状のせいで満たせなくなり、睡眠不足に陥り、その結果、日中眠くて仕事ができない、約束の時間を寝過ごす、などの困りごとが生じていなければ、疾病とはみなされません。

疾病とみなすかどうかには、治療の要否が関係します。睡眠薬は、睡眠時間を延ばす薬ですので、加齢で生じた睡眠時間の短縮に対し、睡眠薬で無理に睡眠時間を延ばすことに健康上の利益は少なく、むしろ弊害へいがいが多いといえます。

(イラストレーション=青木宣人)
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