「ど」が鈍くて、「い」が鋭利な印象を与える理由

困っている人を気遣うひと言
× どうかいたしましたか?

○ いかがなさいましたか?

明治時代の女流文学者・樋口一葉の『ゆく雲』に「本当にどうかあそばしていらっしゃる」と、女性がひとりごちるシーンがあります。

相手の状態がふつうでないことを気にかけた言葉です。現代ではこのような言い回しを使いませんが、じつは「どうされたのかしら?」という意味の言葉です。

山口謠司『もう恥をかきたくない人のための正しい日本語』(三笠書房)

さて、「どうか」という言葉は、明確な根拠もなく、判断をうまくしようがないというニュアンスを持つ言葉です。これは、「どこか」「どれ」なども同じですが、「ど」という語感が、「鈍感」「鈍器」など、ちょっと鈍い印象を与えるからです。

それに対して、「どうか」と同じ意味の「いかが」は、鋭敏な印象を与えます。「怒り」「烏賊いか」「射る」など、「い」が鋭利なものを表す語感があるからです。

なので、相手の心理や体調などの状態が正常でないとき、「どうか」という疑問を投げるのは、相手に漠然とした不安を与えてしまいます。「いかが」と、直接的にその原因を知るべく聞いたほうが、真剣に心配をしているという気持ちを伝えることができるのです。

また、「どうかいたしましたか?」の「いたす」は、自分の行動を相手よりも下の立場としてへりくだって言うときの、「する」の謙譲語です。つまり、「状態が正常でない」のは相手ですから、「どうかいたしましたか?」という言い回しは間違いだということになります。

「相手」が「どういう具合でいらっしゃるのか」を聞くためには、「いかがなさいましたか?」あるいは「いかがあそばされましたか?」と尋ねましょう。

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