日常会話で間違えやすい日本語は何か。中国文献学者の山口謠司さんは「お客様の来訪を告げるとき『お見えになられる』は間違いだ。『お見え』がすでに尊敬を表す言葉で、それに『なられる』と使うと、二重敬語になってしまう。慇懃無礼な言い方だと思われかねない」という――。(第1回/全7回)

※本稿は、山口謠司『もう恥をかきたくない人のための正しい日本語』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

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尊敬、謙譲、丁寧…言葉に込められた「気持ち」を理解できるか

相手の知恵をお借りしたときは
× 参考になりました

○ 大変勉強になりました

学生からお願いのメールがありました。就職活動のためのエントリーシートに、ゼミでの研究内容をまとめなければならないというのです。こういう依頼は、毎年のことですから、すぐに返事を送ると、こんな返信がきました。

「迅速な対応ありがとうございます!」

加えて、資料を添付して送ると、またこんな返事が返ってきました。

「参考になりました!」

「参考になりました」という言葉は、「参考となるご意見を賜り、誠に恐縮の至りです」などという使い方をすればまだ許されるかもしれません。

しかし、言われたほうは、上から目線というか、相手の考えを決めるときの足しとしてしか、自分の意見を扱われていない印象を受けてしまいます。同輩同士で使うのはいいとしても、目上の人、経験を積んだ人に「参考になった」という言葉は、やはり失礼です。

「勉強になりました」「勉強をさせていただきました」と気持ちを込めて相手に感謝するのが、日本語らしい返答なのではないでしょうか。

学生たちがこのような言葉を使ってしまうのは、無理もありません。この学生に限らず、現代の若者たちは、英会話も含め、画一化した「言い回し」を覚えて使っているだけなのが現状です。

日本語は、尊敬、謙譲、丁寧など、「気持ち」を最も大切にしてきた言語ですので、形だけの「言い回し」の濫用になってしまわないよう、言葉に込められた「気持ち」を理解して使っていきたいものです。