間違えやすい日本語は、どのように克服すればいいか。中国文献学者の山口謠司さんは「『させていただく』は『相手の許可』を経て「自分が恩恵を受ける」場合には使っていい。そのため、『スケジュールを変更させていただきます』は適切な言い方だが、『臨時休業させていただきます』は誤用である。この2つの条件に当てはまるかどうかを、直感的に判断できるようになるためには、言葉遣いが上手な人と接する機会を増やすことがもっとも効果的だ」という――。(第3回/全7回)

※本稿は、山口謠司『もう恥をかきたくない人のための正しい日本語』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

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江戸時代、恋する間柄での言葉からの変化

ことわざの語源をしっかりと理解しよう
× 目は口ほどに物をおっしゃる

○ 目は口ほどに物をいう

時代の変化は、言葉にも大きな影響を与えます。それはたとえば、本来、世代を超えて耳学問として伝えられてきた「ことわざ」も、「教え」としての効力をほとんど失ったように思われます。

「目は口ほどに物をいう」は、「情のこもった目つきは、口で話すのと同じ程度に気持ちを相手に伝える」という意味で、江戸時代、恋する間柄での言葉として使われたものでした。

「気があれは、目も口ほどにものを言ひ」と『柳多留拾遺やなぎだるしゅうい』(巻八上)などにも見えています。

ところが、この言葉は戦後まもなくから、恋愛の言葉としてではなく、「無口な人の気持ちや雰囲気を目で読む」という意味で使われるようになってしまいます。

そして、無口で怖く、偉い立場の人に対する敬意と自分を謙遜することから、「(そういう人の)目は、口で伝えられる言葉より、多くのことを言う」の意味で「言う」を「おっしゃる」に言い換えられるようになってしまったのでしょう。

そういえば、『論語』の「子曰く」は、2000年頃まで「しのたまわく」と読む人が多かったのが、最近では「しいわく」と読むようになりました。

孔子を聖人だとすれば「しのたまわく」となるのでしょうが、孔子は「聖人」ではなく、ひとりの哲学者、思想家として相対的な「人」として扱われるようになったからでしょう。

言葉の変化は、時代の変化です。必ずしも「古い言葉=正しい言葉」ではありませんが、言葉の変化が何に起因しているのかを知ることは、大切なことではないかと思います。