二重敬語は使わない

目上の人が何かを「見た」とき
× ごらんになられる

○ ごらんになる

「ごらんのとおり」は、プレゼンテーションなどのビジネスシーンでよく耳にする言葉です。この「ごらん」、どのような漢字を書くかみなさんはご存じですか。

漢字では「御覧」と書きます。

中国、北宋時代に編纂された大百科事典で『太平御覧たいへいぎょらん』という1000巻に及ぶものがあります。これは北宋の第二代皇帝・太宗たいそうが勅命を出して作らせたものです。

「天」「地」「職官」「疾病」「工芸」「衣服」「獣」「鳥」「昆虫」などの55部門、約5000項目がひとつひとつ解説されており、引用文献は1690種類にも及ぶといわれています。

皇帝として君臨するということは、言い換えれば、天地の間に存在するすべてのものを掌握しているということでした。そして、この事典の書名は、皇帝がこの世の物事のすべてを「太平」に治める方策を知るために、「御覧」になる本という意味なのです。

おもしろいことに、この事典は中国では亡失していますが、現在、日本には宮内庁、静嘉堂せいかどう文庫、東福寺がそれぞれ所蔵しているものが残っています。美しい書体で印刷された本は、まさに皇帝が「御覧」になるに相応ふさわしい威厳を保っています。

さて、「ごらんになられる」という言い方をする人がいますが、「御覧」は、「御」という漢字が使われるように、すでにこれで敬語です。「なられる」は「なる」の敬語ですから「御覧になられる」は敬語を重複させることになってしまいます。

日本語は基本的に、「二重敬語」は使わないことを原則にしています。

×サインを掲げる人のイメージ
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※写真はイメージです

慇懃無礼な言い方だと思われかねない

お客様の来訪を告げるとき
× お見えになられました

○ お見えになりました

「お見えになる」は、目上の方がこちらへ「来る」ことを表します。「お越しになる」「おいでになる」「いらっしゃる」という言い方で置き換えることも可能です。

江戸時代、将軍や大名などに面会することは「御目見おめみえ」と言われており、将軍に謁見えっけんすることが許された身分のことを「御目見以上」と呼び、武士の格式を表す語として用いられていました。

これは、古代、天皇自らが治めている天下を、直接「目」で「見る」という行為が、そのまま天下の安寧あんねい泰平たいへいを願う意味であったことに由来する言葉です。

ですから、本来なら「お見えになる」は、会長や社長、部長など会社や部署などを統括するような人が、直接部下に会って、状況の把握をするという意味で使われるものです。しかし、現代では、尊敬語としてのみ使われるようになってしまいました。

「お見えになられる」という言い方は、「お見え」がすでに尊敬を表す言葉で、それに「なられる」と使うと、二重敬語になってしまいます。

丁寧な言葉遣いは大切ですが、「お見えになられる」と言うと、慇懃無礼いんぎんぶれいな言い方だと思われてしまうかもしれません。

「お見えになる」「おいでになる」と言うのがふつうで、遠いところからわざわざ「お見えになる」場合には、「お越しになる」を使うのが適切です。