日常生活で間違えやすい日本語は何か。中国文献学者の山口謠司さんは「レストランや居酒屋の店員に『おあいそしてください』は明らかに使い方が間違っている。『おあいそ』とは、もともと店の主人が『愛想がなく、行き届いたまかないができずに、申し訳ありませんでした』という意味で、客に対して使う言葉だった。お店で会計を依頼するときには、きちんと『お会計をお願いします』と言ったほうがいい」という――。
※本稿は、山口謠司『もう恥をかきたくない人のための正しい日本語』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
本来の意味をほとんどの人が知らない言葉
檄を飛ばす
スポーツ中継などを見ていると、よく「コーチが選手に檄を飛ばしていますね」というコメントを耳にすることがあります。
これは、もちろん「激励している」「応援している」という意味で使われているのですが、この使い方は誤りです。
「檄」とは、もともと「自分の主義、主張を書いた文書」のことです。
市ヶ谷の防衛庁(現在の防衛省)で三島由紀夫が自決したとき、「檄」という声明文を撒布し、絶叫していたことを知っている方も少なくないのではないでしょうか。三島は、檄を飛ばして、聴衆が自分の意見に共鳴するよう呼びかけたと言います。
「檄を飛ばす」とは、もともと「人々を呼び集める」「自分の主張に共鳴するように呼びかける」という意味で使われていた言葉です。
ところが、2000年頃には「元気のない人に、刺激を与えて活気付けること」という意味だと思う人が、日本語を使う人の約7割以上になったのです。
これは、「檄」と激励の「激」がよく似た漢字であり、本来の意味にある「人に対する呼びかけ」の部分が、「激励している」「応援している」という意味と混同するようになったからだと考えられます。
本来の意味を知る人は、これからますます少なくなってしまうでしょう。