NISAを始める前に家計を見直すべき理由

そこで、田中家に投資ができるだけの余裕があるのか、家計簿を拝見。「月々赤字になることもあるけれど、年間で見れば問題ないと思います。貯金もできていますから」――マサトシさんはこうざっくりとおっしゃっていましたが、ところがどっこい。ふたを開けてみたら、マサトシさんは役職定年後、手取りの収入が2割減ったにもかかわらず、支出は増大し、赤字になっていたのです。

手取りの月収は、マサトシさんが26万円、妻のエリカさんが7万5000円、合わせて33万5000円です。それに対し、月の支出は39万4500円。毎月6万円近くの赤字が出ていました。その赤字は、年間100万円のボーナスから補塡ほてんしていて、ボーナスの残りが貯金となり、現在の貯蓄額は680万円程度。ボーナスで赤字を補塡できているから「年間で見れば問題ない」と考えたようですが、臨時の大きな支出があれば、ボーナスは瞬時に消え、貯金は赤字補塡で減る一方ではないでしょうか。

それにしてもなぜここまで赤字になるのか。減収前の生活水準を崩せない人は多いですが、田中家の場合は別の事情がありました。

50代後半になり、時間に余裕ができた。今まで仕事と子育てに追われてきた分、夫婦水入らずでプライベートを楽しみたいと、ちょっと足を伸ばして隣県まで日帰り温泉に出かけることが増えたようなのです。すると、その帰りに道の駅に立ち寄り、現地の安い野菜を買ったついでに、高めの名産品までも買ってしまう。それがバカにならない額に膨れ上がっていた――のです。

「30年以上あくせく働き、家計を切り詰めて教育費を捻出し、自分たちのことにお金を使えなかった。子育てを終えて時間ができた今、少しばかりはお金を使ってもバチは当たらないだろう。別に旅行三昧で贅沢しているわけではないし」――そんな心境になるのも理解できます。

ただ、その一方で、65歳まで10年足らず。急ピッチで老後資金も貯めたいから預貯金を投資につぎ込みたい、という思考には「待った」をかけざるをえません。

繰り返しになりますが、投資は、毎月赤字が出ている状態でするべきものではありません。あくまでも余剰資金で行うものです。まず目の前の収支をプラスにして維持しつつ、貯蓄を増やしていくことが先決。家計の見直しは避けて通れません。早速、家計にメスを入れさせていただきました。

まず通信費は、社会人になりたてはお給料も少なくて大変だろうからと、独立した次女の分までまだ親御さんが払っていたため、引き落とし口座は次女名義に変更。食費や日用品は「必要な物を必要な分だけ買っている」と言っていましたが、結構な細かい支出がある。特に、車でプチ遠出する時の支出が多いので、頻度を減らしてもらいました。小遣いは、マサトシさんの収入が減った分、これまでお昼や夜食用にコンビニで購入するために確保していた小遣いから2万円を削減。

そうして、支出から7万7500円をカットし、見事に赤字家計を脱却し、1万8000円の黒字に転換させました。