「何のための導入なのか」目的を通底させる

端的にいえば、経営陣と現場のすれ違いです。

現場には、たしかに経営陣からの通達がありました。しかし、「何やら新しい仕組みが上から降りてきた」という程度の認識しかありませんでした。経営陣の一番の狙いである「一般の人たちの感覚が反映される」という点がうまく共有されていなかったのです。

そのため、現場の担当者たちは、その評価の仕組みを、その界隈のプロたちの意見の集約に使ってしまった。経済学者が設計した仕組みは実装されたけれども、経営陣の狙いとは大きく異なる事態が起きてしまうわけです。新しい制度やシステムを導入する際にはたいてい、導入者は通達とともに、丁寧に作成されたマニュアルを用意します。しかし、現場がそのマニュアルにきちんと目を通すとは限りません。取扱説明書を読まずに、勝手な解釈で誤った使い方をしてしまうことも珍しくない。

社内でのすり合わせが不十分だと、こういうことが起こる可能性があるのです。

経済学はツールです。そして、どんなツールもそうであるように、「何のためのツールなのか」「どうやって使うのか」を、実際に使う人たち、つまり現場が理解していなければ、そのツールは本来の役割を果たせません。

新しい専門知をビジネスに活用するのなら、その目的と正しい使用法の認識を社内で通底させる必要があるのです。

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最低限の経済学の知識は必要

続いて、経済学者との連携を見ていきましょう。

ビジネス活用の最初のアプローチは、おそらく、ビジネスパーソンから経済学者へのアプローチのほうが一般的かと思います。

その際には、ビジネスサイドにもある程度専門分野の基礎知識が必要、というのは、前述の通りです。闇雲に経済学者を訪ねるのと、自ら知識を学んで専門分野が近そうな経済学者を訪ねるのとでは、出発地点が大きく違います。課題に合わせて学知をマッチングする必要があるため、最低限の基礎知識が、学知のビジネス活用においては大きなアドバンテージとなるわけです。

さらに、私の提案する学知のビジネス活用は「団体戦」です。目下のビジネス課題を解決するために複数の学知を組み合わせ、チームで臨むというイメージです。

つまり、本当に課題を解決し、成果を最大化するには、1つの分野だけでなく、いくつもの分野を組み合わせる必要があることも多々あります。私が見てきた活用事例も、そういうケースが大半です。

そうした観点からビジネスサイドに求められるのは、一人の経済学者に目星をつけて相談を持ちかけても、一挙に課題解決できると期待しすぎないことです。あくまでも、自分たちビジネスサイドも含めた「チーム」として、課題に取り組むという前提意識が必要であると心得ておいてください。

そのため、やはり経営者、そして現場においても、経済学の最低限の教養は必須となってきます。経済学の最低限の教養は、言い換えれば、経済学者との共通言語です。

経済学者との共通言語を獲得し、ビジネス課題を言語化できるようにしたうえで、実際に経済学者の門を叩いてみる。課題を解決し、成果を最大化するベストなチームづくりが、ここから始まります。