経済学をビジネスに役立てる企業が増えている。エコノミクスデザイン代表の今井誠さんは「ビジネス課題の解決に経済学を取り入れる際に、一番ものをいうのはデータだ。うまく活用できれば、ビジネスを成長させる『宝の山』だが、自然にたまっているデータは使い物にならないことが多い。目的にあわせて、意図的にデータを集めることが大切だ」という――。
※本稿は、今井誠『あの会社はなぜ、経済学を使うのか?』(日経BP)の一部を再編集したものです。
「経済学」のビジネス活用でよくある失敗
経済学のビジネス活用の相談は、現場に近いビジネスパーソンから寄せられることもあれば、経営者サイドから寄せられることもあります。いずれにしても、何かしらの責任者、決裁権を持った方から寄せられるのが大半です。
そうした経緯から生じやすいのが、社内のズレです。たとえば経営陣と現場と、あるいは現場のリーダーと実作業者との間での認識のズレなどが、経済学の活用の障害となってしまうケースがあります。
ここでは、レーティングを例に考えてみたいと思います。
ある企業の経営陣が、「一般の人たちの感覚が反映される評価(星付け)の仕組みが欲しい」と考えて、経済学者に仕事を相談したとします。その企業の経営陣にはある程度の経済学の素養があり、建設的な議論のうえで経営陣の課題意識に沿ったレーティングの仕組みが設計されたとします。経営陣は、さっそく現場に通達を出し、その仕組みを実装しました。
しかし、実装からしばらくたって、自社が提供するレーティングを見た経営者は驚きました。玄人受けするような、マニアックなものになってしまっていたからです。
経営陣の課題意識とも、経済学者の設計した制度とも異なる結果になってしまっていた。どうしてこんなことになってしまったのでしょうか?