国ごとに公共政策チームの役割は異なる

現在、国際公共政策チームが担当しているアマゾンのショッピングサイト(例えば、Amazon.co.jp)は全部で18存在し、アラブ首長国連邦(19年開設)、サウジアラビア(20年開設)、エジプト(21年開設)向けのサイトなど、私の入社時には開設していなかったサイトが大半である。24年には南アフリカ共和国向けのサイトも開設される。これらの新興国には、サイトの開設前から公共政策担当の社員が採用され、サイトの円滑な開設を実現するために、例えば外国資本による100%出資を禁じるような法的な障害の除去であったり、現地の関係団体と連携しローカルな商品販売のプロモーションをしたり、政府高官との関係構築などを行っている。

新規にサイトを開設する国以外では、それぞれの国におけるビジネスプランの内容によって公共政策チームの役割が異なってくる。

例えば、インターネットショッピングではアマゾンによる直売事業が中心なのか、マーケットプレイス事業も行うのか。生鮮食料品や医薬品は取り扱うのか。電子書籍、音楽や映像などのデジタル配信を行うのか。アマゾンスタジオによるオリジナルの映像制作は行うのか。キンドルやエコーなどのデバイス機器の販売は行うのか。アレクサのサービスは投入するのか。広告ビジネスはどこまで展開するのか。無人決済店舗のアマゾン・ゴーなどの実店舗も運営するのか。オペレーションや配送にロボットやドローンを活用するのか。新たな金融決済手段を導入するのか。データの取り扱いや機械学習の利用はどこまで野心的に行うのか。あるいは、米国でも未実施の低軌道衛星通信プロジェクト・カイパーのような新規事業も行うのか。

写真=iStock.com/tolgart
※写真はイメージです

国際政治・国内政治の状況も影響を与える

例が長くなったが、このように広範な事業領域の中で各国におけるそれぞれのビジネスプランを実現するために、公共政策チームは先んじて行動を起こす。また、先進国で議論されている競争政策や消費者保護政策のように、すでにアマゾンが実施している事業に対して新たに政府側から惹起される課題に対応するのも重要な仕事である。

このように、グローバルなテック企業の公共政策チームは、各国におけるビジネスの熟度、政策課題の熟度によって、業務内容がかなり異なってくる。また、外部環境によって各国が注目する政策課題が異なるため、その違いに対応することも余儀なくされる。

例えば、ポピュリズムに加担しなければならないほど政治的に脆弱ぜいじゃくな状況かどうか、財政再建上の理由からテック企業の(利益ではなく)収益への課税に着目しているかどうか、疲弊している中小企業からの対テック企業対策についての政治的要求が強いかどうか、持続可能性やデジタル分野の主権と戦略的自律性を追求するような政治的大目標が存在するかどうか、テック企業に寄り添い保護主義姿勢をとる他国に対して米国政府が攻撃的な態度を示すかどうかなど、国際政治上、各国の国内政治上の情勢によって公共政策チームがそれぞれの国でどう立ち回らなければならないかは変化する。