「置き配」は今では当たり前のサービスになっている。なぜ日本社会に定着したのか。アマゾン最古参のロビイストである渡辺弘美さんは「置き配は日本での認知度は低く、消防法に抵触するリスクもあった。私はアマゾンが置き配サービスを開始できるよう、国土交通省と経済産業省を味方につけて、置き配の社会的受容性を高めていくことを考えた」という――。

※本稿は、渡辺弘美『テックラッシュ戦記 Amazonロビイストが日本を動かした方法』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

アマゾンの箱
写真=iStock.com/Daria Nipot
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今では当たり前の配達形態になった「置き配」

コロナ禍ですっかり日常に定着した置き配。配達員が荷物を手渡しせず、在宅でも留守でも指定した場所に商品を置くことで配達完了にするサービスである(アマゾンでは置き配指定サービスと呼んでいる)。置き配サービスを行っている企業によって、その内容には差があるが、アマゾンでは玄関先だけでなく、宅配ボックス、車庫、ガスメーターボックス、自転車かごなど、商品を置く場所をお客様が選ぶことができ、お客様が希望される場合には、配達完了時に届けた場所の写真を送るようになっている。また、配達完了になっているにもかかわらず商品が届いていない場合などには、お客様から状況を伺った上で、商品の再送や返金を行う補償対応も行っている。

今では、当たり前の配達形態になっているが、置き配サービスを開始する前には、その社会的な受容性を高めるにはどうすればよいかが課題であった。日頃、お客様からは、せっかく寝付いた赤ちゃんを配達のインターフォンで起こしたくない、女性の場合、すっぴんで配達員に顔を見られたくないなど、さまざまな理由から置き配を希望する声があった。もちろん、荷主であるアマゾンにとってもお客様にとっても、再配達を避けて、一度で商品が受け取れる置き配は魅力的であった。

消防法に抵触するリスクがあった

一方で、当時は米国とは異なり、日本では置き配の認知度はまだまだ低く、仮に、いたずらに置き配のリスクに焦点を当てるような報道がなされたり、メディアの論調などにより規制当局などから横やりが入ったりすることともなれば、置き配を実現することが難しくなるリスクが想定された。

最悪の場合、例えば、マンションの玄関前など共用部分に置き配する際、消防法では、「(略)廊下、階段、避難口その他の避難上必要な施設について避難の支障になる物件が放置され、又はみだりに存置されないように管理し、かつ、防火戸についてその閉鎖の支障になる物件が放置され、又はみだりに存置されないように管理しなければならない」(消防法第8条の2の4)とあり、保守的に解釈すれば、消防当局から、マンション共用部での置き配に対して強く規制されるリスクがあった。そこで、置き配に対するポジティブな雰囲気を前もってどう醸成しておくかが課題であった。