国交省と経産省を味方につけて社会的受容性を高める戦略
政府としては、宅配便の再配達率(当時〔2017年度〕で16%程度)をいかに削減するかが重要課題となっており、置き配は再配達率を大幅に改善する切り札であることは明白であった。そこで、私は、再配達率を削減したいという目標を掲げている国土交通省と、荷主側の意向をくみ取ってくれる立場にある経済産業省を味方につけて、置き配が多様な受取方法の一つとして広く認知されるような雰囲気を醸成し、一気に置き配の社会的受容性を高めていくことを考えた。
このような考えに至ったのには伏線がある。2015年6月に、国土交通省の物流審議官部門物流政策課企画室(当時)が、EC市場の成長の一方でドライバーの労働力が不足している状況下で再配達率を削減することがいかに重要であるかの認識を共有するために、宅配の再配達の削減に向けた受取方法の多様化の促進等に関する検討会を開催していた。その後、この動きをフォローアップするためには、個々の事業者による取組だけでなく、宅配業界とEC・通信販売業界との間の連携が不可欠であるとの認識の下に、2018年5月に経済産業省と国土交通省の共同により、宅配事業とEC事業の生産性向上連絡会が設置され、私も委員の一人になっていた。
省エネルギー対策上の、荷主に対する規制強化の流れ
この時点では、コンビニでの受取、住宅における宅配ボックスでの受取、鉄道などの公共的空間での受取が議論の主流であり、置き配にはまだ焦点が当てられておらず、ほんの少しだけ上記連絡会のこれまでの議論のとりまとめの中に置き配の言葉が記載されているだけであった。
もう一つの伏線としては、省エネルギー対策上の荷主に対する規制強化の流れがあった。同年6月にエネルギーの使用の合理化等に関する法律(いわゆる省エネ法)の一部を改正する法律が公布され、貨物の所有権を問わず、契約等で輸送の方法等を決定する事業者も新たに荷主とされ、ネット小売事業者も規律の対象になった。荷主のうち、年度の輸送量が3000万トンキロ以上の者が特定荷主とされ、省エネ法の告示で定める荷主判断基準の遵守が求められることになった。
その荷主判断基準の見直しのため、同年8月に、総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会省エネルギー小委員会の下に荷主判断基準ワーキンググループが設置され、私もオブザーバーの一人になった。荷主判断基準には基準部分と目標部分があるが、その目標部分に小口貨物(主にBtoC)の配送効率向上として、再配達の削減が新規に盛り込まれることとなった。