アスリートの栄養補給をフルサポート

さらに、ゲータレードを「スポーツフューエル(燃料)」と再定義し、栄養全般に関わる姿勢を明確にした。目玉として「1-2-3 Gシリーズ」を発表し、①運動中のドリンク(ゲータレード)②運動前のゼリーとエナジーバー③運動後のプロテインスムージーとプロテインシェイク――を投入した。

特筆に値するのはスポーツフューエルだ。アスリートは水分補給だけでなく総合的な栄養補給を必要としているのに、具体的に何を摂取したらいいのか理解していないという点に着目した戦略だ。

オリンピックで金メダルを取るほどの超一流選手であっても、スポーツフューエルの潜在顧客になる。

例えば、「人類史上最速の男」と呼ばれるウサイン・ボルト。栄養管理については最先端を行っていたと思われているのではないか。実際には違った。夏季オリンピックのレース前にはソフトキャンディーの「スキットルズ」を食べていたといわれている。

Gシリーズがパフォーマンス向上に効果があるとなれば、アスリートにとって価格は二の次になる。

実際、Gシリーズ発表を境にして、ゲータレードの価格に明らかな違いが出た。発表前には32オンス(950ミリリットル)入りボトルが99セントだったのに、発表後には12オンス(350ミリリットル)入りボトルが2ドル99セントになったのである。

容量半分、価格3倍になっても売れた

ドリンクの容量が半分以下になったというのに、価格は3倍に跳ね上がった計算になる。ゲータレードが顧客セグメントをアスリートに絞り込み、スポーツフューエル戦略を全面展開したからこそといえる。

結局、オヘイガン氏の指揮下でゲータレードは復活し、2015年までに市場シェアを取り戻した。

オヘイガン氏はコア商品のドリンク(ゲータレード)にはほとんど何も手を加えなかった。代わりにブランディングを変えたり、商品の種類を減らしたり、アスリートをターゲットにしたりした。

つまり、コア商品を変えずにコア商品周辺で補完的なイノベーションを起こしたということだ。

日本ストローにとってコア商品の一つは、年間生産能力12億本のストレートストローだ(もう一つのコア商品は伸縮ストロー)。同社の戦略を点検すると、ゲータレードとの類似点がいくつか浮き上がる。