イノベーターに必要な条件は何か。高千穂大学准教授でマーケティング戦略が専門の永井竜之介さんは「業界の『構造』と『対象』を変革していくのが真のイノベーターだ。メガネ業界であればJINSが挙げられる。歯科矯正の業界でも、同様のイノベーションを起こそうとしている企業が現れている」という――。
美しい歯を見せて笑う女性
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韓国の「安くて早いメガネ」に衝撃を受けた

さまざまな「当たり前」を更新して、新しい価値を普及させる企業は「イノベーター」と呼ばれる。JINSは、「目」の当たり前を更新し、メガネを通じて新たな価値を普及させたイノベーターだ。

JINSは、2000年、もともと雑貨店を経営していた創業者・田中仁氏が、出張で訪れた韓国で「安くて早いメガネ」と出会ったことから始まった。当時、日本では3万円以上の高額が当たり前だったメガネが、韓国では10分の1の低価格で、しかも15分で買って受け取れることに衝撃を受けた。メガネの当たり前が、日本と韓国でなぜここまで違うのか。調べてみると、日本ではメガネ業界特有の複雑な流通経路があり、製造プロセスにおける中間コストと利幅が大きいことで、メガネが高額になっていた。

そこで、不要なプロセスとコストを徹底的に削減し、企画・製造・販売をすべて自社で完結させることで、韓国の「安くて早いメガネ」を真似る形でビジネスをスタートさせた。メガネを1つ5000円で販売すると、すぐに話題を呼んで飛ぶように売れたが、同じように真似をするライバルたちが増えてくるにつれて、競争が激化し、次第に低迷していった。雑貨とメガネを組み合わせて販売してみても上手くいかず、2008年には多くの店が閉店に追い込まれて最終赤字に転落し、株価も下がり、上場廃止の危機にまで陥った。

ユニクロ柳井氏との会談でショックを受けた

転機となったのは、ユニクロの柳井正氏との会談である。気軽に会談に臨んだ田中氏は、「どんな仕事で、事業の価値は何で、会社の目指すビジョンは何か」など、次々に問いかける柳井氏に圧倒され、上手く答えることができなかったという。柳井氏から、「この株価は会社に将来性がないと思われている」「ビジョンなき経営は絶対に成功しない」(※1、※2)など、痛烈かつ的確な言葉を受けて、田中氏は翌日の昼まで寝込むほどのショックを受けた。

しかし、この会談をきっかけに、JINSはビジョンと戦略を一新し、「メガネの王道」で勝負する覚悟を決めて、新しい価値の創出に挑戦していく。以前は大手メガネ会社との勝負を避けてきたが、真っ向勝負に出る戦略を選んだ。それが、これまでにない軽さを追求した軽量メガネ「Airframe」である。スイスの医療機器用素材メーカーの開発した、軽くて安全で、弾力性と復元力に優れた素材と、日本人の顔に合うよう開発された抜群のフィット感が評判を呼び、2009年の発売直後から人気を集め、累計販売本数が2200万本を突破するほどの大ヒット商品となった。