JINSはメガネ業界の構造を変革した

この成功で、田中氏は、「メガネだったら日本ではどこにも負けないし、世界でだって戦える」と思えるようになれたという。後日、柳井氏と再会した際には、「いろんな人にアドバイスを頼まれるけど、実行する人はほとんどいません。あなたは数少ない実行者です」(※2)と言葉をかけられ、胸が熱くなったそうだ。

その後、JINSは、「Magnify Life」にビジョンを更新し、「人々の生き方そのものを豊かに広げ、これまでにない体験へ導く」という目標を実現していくために、新たなメガネを次々に生み出している。パソコンやスマートフォンのブルーライトをカットすることで目の負担を軽減する「JINS SCREEN」。花粉や飛沫ひまつが目に入ることを防ぐ「JINS PROTECT」。まばたきや視線、身体の動きを計測するセンサーを搭載し、専用アプリと連動することで心身の健康をサポートする「JINS MEME」。これらに共通するのは、視力が悪い人だけでなく、視力の良い人も含めた「すべての人」にとって価値があるという点だ。

真のイノベーターは、物事や業界の「構造」と「対象」を変革していく。JINSは、分業制で複雑な製造プロセスの結果、高額になるのが当たり前だったメガネ業界の構造を変革した。また、「メガネは、目が悪い人にだけ必要な道具」という当たり前の前提をくつがえし、目のさまざまな負担を軽減するために、「メガネは、すべての人にとって必要な道具」として再定義し、メガネを使う対象を大きく変革していっている。

ノートパソコンの上に置かれた眼鏡
写真=iStock.com/peshkov
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歯科矯正の業界における“JINS的ベンチャー”

「目のイノベーター」であるJINSをお手本として、「歯科矯正版JINS」を目指すベンチャー企業に「Oh my teeth(オーマイティース)」がある。Oh my teethは、「歯」の当たり前を更新し、歯科矯正を通じて新たな価値を普及させる「歯のイノベーター」となるために、現在進行形で挑戦を続けている存在だ。

2019年12月にサービスを開始すると、その後、3年半の間に利用者1万5000人を突破し、表参道・有楽町・新宿・池袋・大阪心斎橋に専門クリニックを展開して、「アジアNo.1のオーラルテックベンチャー」を目指して成長を進めている。同社のサービスは、従来の歯科矯正が抱えていた課題を、エンジニアと専門ドクターが手を組み、デジタルを活用した新しいサービスによって解決しようとするものだ。

Oh my teethのサービスは、まずクリニックで診療を行う。事前予約制で待ち時間0、診療時間は30分だ。診療では、3Dスキャンで歯型を抽出し、口内をレントゲン撮影して、ユーザーの歯の現状を明らかにする。その場で、すぐに3D化された今の歯並びを、ユーザーとドクターが一緒に見ながら、かみ合わせや歯並びをチェックして、「矯正したら、どうなるか」というゴールを確認する。この診断までは無料のサービスだ。症状が重い場合には、自社サービスではなく、従来のワイヤーなどによる歯科矯正をその場で勧めている。

その後、LINEで届く矯正完了後の歯並びのイメージを承認して契約・支払をすると、診療データを基にオーダーメイドされたマウスピースが自宅に届く。治療計画書の作成、マウスピースの製作などを含めた、すべてのプロセスを自社で内製化していることが特徴だ。矯正段階に合わせたマウスピースを1日20時間、約12週間つけることで歯並びを矯正していく。矯正後、歯が後戻りしないように保定する期間を経て、治療は完了となる。