各種検査の中で、「これは不要ではないか」と私が強く思うのは高齢者の「がん検診」です。

日本人の死因の一位となるがんで死ぬ人が増えるほどに、マスコミなどを通じて「がんは怖い病気だから、がん検診を受けよう」と喧伝けんでんされがちです。しかし、世界中を見ても日本でがんの死者数が多く増え続けている理由の一つは、「がん検診のしすぎ」だと感じています。

昨今の日本では、腫瘍マーカーなどの血液で簡単にできる検査をはじめ、がん検診が広く行われるようになりました。しかし、がん検診がどんどん普及しているのに、がん患者の数が増え、がんによる死亡者数も増えています。

なぜこんな不思議な事態が起こっているのでしょうか?

それは、検診で見つけなくてもよいがんを発見しては、無理やり治療するからこそ、がん患者やがん死者が増えているという大きな矛盾が存在するからです。

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高齢者にがん検診は必要ない

そもそもがんは治療せずに放置していても、死の直前までは痛みなどを感じづらく、晩節を穏やかに過ごせるため、「最も幸せな病気」と言う医者もいるほどです。余命があと数年という患者さんのがんを見つけて、それを無理に治療してつらい思いをさせる必要はないと私は思います。

また、どんなに対策していても、高齢者になるほどにがん患者の割合は増えていきます。そもそもがんという病気は、細胞の老化によって引き起こされる要素があります。私がかつて浴風会病院という高齢者専門の総合病院に勤務していた際、患者さんの遺族の許可を取り、毎年100例ほどの遺体の解剖が行われていました。

解剖してみたところ、80代後半の方で、体の中にがんのない患者さんはほとんどいませんでした。それでも、がんが死因だった人は三分の一くらいで、残りの方はご自身ががんであることを知らずに亡くなっていきました。

高齢者であれば、がんが体内に発生したとしても、無理やり早期発見をして、治療する必要はないともいえるのです。

一番怖いのは「がんもどき」を無理やり治療する行為

「病気は早期発見するほうが良い」と思われるかもしれませんが、検診によって恐ろしいのが、本来は治療しなくてもよい「がんもどき」を発見することです。「がんもどき」を最初に提唱したのは、近藤誠先生です。がんには、ほかの臓器への転移や浸潤しんじゅんする能力を持つ危険ながんと、これらの能力を持たない「がんもどき」の2種類があります。

危険ながんの場合は、手術などで取り除いても再発を繰り返しますし、手術や抗がん剤治療などを行うことで体への負担が強くなり、死期が早まることもあります。

しかし、がん検診で見つかる早期がんの大半は、「早期治療したほうが良いがん」ではなく、治療する必要のない「がんもどき」だというのが、近藤先生の考え方です。悪さをしない「がんもどき」は、転移はしないので、ご自身が症状を自覚するようになってから治療しても、決して遅くありません。