原案本の作者が見る「風、薫る」
NHK連続テレビ小説「風、薫る」は、見上愛さんが演じる「一ノ瀬りん」と上坂樹里さんが演じる「大家直美」が、疫病、災害、戦争の時代をトレインドナース(看護婦、現在の看護師)として生き抜いていく姿を描くドラマである。
拙著『明治のナイチンゲール 大関和物語』(中央公論新社)が原案となっているが、「原作」ではなくあくまで「原案」である。そのため、脚本にはアレンジが加えられており、私はこのドラマがこの先、どう展開していくのかを知らない。だからこそ毎日、一人の視聴者としてドラマを楽しんでいる。
さて、りんは「大関和」、直美は「鈴木雅」という実在したトレインドナースをモチーフとしている。りんは、モチーフの大関和と同じく「元家老の娘」という設定だが、直美の設定はモチーフの鈴木雅とは大きく異なる。雅は幕臣の娘で、明治維新後にミッションスクール(現在のフェリス女学院)で学んだあと陸軍の軍人と結婚。娘と息子をもうけるも、夫が病死したため、28歳で看護学校へ入学している。
直美のモチーフは士族の娘だった
一方、ドラマの直美は、女郎が教会に置き去りにした「みなしご」という設定である。いくつかの教会を転々としながら育ち、原田泰造さんが演じる吉江善作牧師のもとに落ち着いた。
士族と「みなしご」では、ほとんど真逆の設定なのだが、これには理由があろう。主人公を2人とも士族とするよりも、立場を変えた方が当時の女性の多様な人生を描きやすい。現に直美が「みなしご」であることで、教会の存在や長屋、遊郭、低所得者層が働く工場などを説明ぬきで描くことができた。
そしてもう一つ、私は直美の「みなしご」設定から、あるメッセージを受け取ったように感じた。それは、直美が看護実習先で出会う、ある女性とのエピソードに描かれていた。
セツの言葉が解いた「みなしご」の呪縛
吉江牧師のもとで成長した直美は、長屋で暮らしながら、マッチ工場で働いていた。「私には何もない」とやさぐれた生活を送っていたが、多部未華子さんが演じる大山捨松と出会ったことが転機となり、一念発起して看護婦養成所へ入学する。
同じ養成所に入ったりんに直美は少しずつ心を許し、自分の母親が女郎だったことを明かす。捨てられたときに身に付けていた「浦崎八幡」と書かれたお札を大切にしているが、自虐的に「みなしご」という言葉を使い、周囲には自分を捨てた母親を恨んでいる素振りを見せていた。