「がんもどき」の代表的なものといえば、スキルス性以外の胃がんや前立腺がん、甲状腺がんなどです。これらのがんは、手術や抗がん剤、放射線などで治療しようと試みられがちですが、放置しても問題がないことも多いので、無理に治療してQOLを下げるほうが問題だと私は考えています。

何が言いたいのかというと、がん検診を受けても、数種類のがんをのぞけば、大半のがんは見つけても助からないか、放置しても問題のないもののどちらかしかないということ。ですから、日本では数多のがん検診が行われているものの、がんの死亡者数がちっとも減らないのです。

がんと一緒に生きる選択肢もある

早期発見したとしても、深刻ながんの場合は、寿命を1、2年延ばすことはできても死を防ぐことは難しいのです。

非常に残念なことですが、転移するタイプのがんは、10年ほどの年月をかけて、1センチほどの大きさへと成長していきます。その頃になってようやくがんを発見できるわけですが、すでにその時点で、がんは体中のいろいろな場所へと転移しています。

つまり、がんの種類が悪ければ、早く見つけて治療してもうまくいかないですし、がんの種類が悪さをしないものであれば、治療をしなくても長生きできるのです。

もちろん若い人ならば手術や治療に耐えられる力はあると思うので、早期発見によって治療する選択肢も悪くはないでしょう。ですが、ただでさえ体中の細胞ががん化しやすい上にその進行が遅い高齢者については、早期発見したせいで治療を行うことになり、抗がん剤や手術で体を壊したり、入院によって足腰が弱ったり、体力が大きく落ちてしまったり……との弊害が起こりがちです。

歩行杖の老人を介助
写真=iStock.com/Ridofranz
※写真はイメージです

私自身が見てきた多くの高齢者たちの中には、がん検診を受けず、自分ががんだと知らなかったがゆえに、最後まで人生を楽しみ、穏やかに亡くなった方々が大勢いらっしゃいます。

どちらを選ぶかは価値観次第ではありますが、検診を通じて無理にがんを見つけて戦おうとするのではなく、もしかしたら体にいるかもしれないがんと一緒に生きるという人生を選ぶことも、一つの手段だと思います。

過度な医療の介入は健康を損なう

現在の日本の医療は、事前に病気を防ごうとする予防医療が中心です。ですが、そのやり方はあまり意味がないのではないかと、私は常々思っています。

そう思う根拠の一つに、1974年から1989年にわたってフィンランドの保険局で行われた大規模な調査研究があります。この調査では、40歳から45歳の循環器系が弱い男性が約1200人参加し、健康管理をされたグループと何も介入しないグループとに分けて、その後15年間にわたって追跡調査を行いました。