今回の問題も政治資金規正法では歯が立たない

2004年7月には、日本歯科医師連盟から平成研究会(橋本派)に対する1億円の政治献金が行われたことについて、派閥の幹部の会合で、領収書を出さず収支報告書に記載しないことを決めた事実があったので、それについて、虚偽記入罪が適用され、村岡兼造元官房長官と事務局長が起訴された。

この事件も、平成研という政治団体に対する寄附であることが外形上明白で、それについて領収書を交付するかどうかが検討された末に、領収書を交付しないで「裏の献金」で処理することが決定されたからこそ、政治資金規正法違反の罰則適用が可能だったのである。

「裏献金」を政治資金規正法違反で処罰できる事例というのは、上記のような「外形上帰属先が明白な事例」に限られ、政治家本人が、「裏金」として直接現金を受け取るような事例には、政治資金規正法の罰則は歯が立たないというのが現実なのだ。

現金でやりとりされていれば、どの政治団体宛か特定できない

今回の自民党派閥の政治資金パーティー裏金問題でも、議員がノルマを超えて販売した分が、キックバックや議員側への留保等によって、「裏金」として議員側に入ったとされている。「裏金」である以上、銀行口座ではなく現金でやりとりされているはずだ。この場合も、何の政治資金処理も行われていないのであれば、その「裏金」が、当該議員に関連するどの政治団体の「収入」とされるべきものなのかを特定することができない。

そうなると、どの政治団体、あるいは政党支部の収支報告書に記載すべきだったのかが特定できないので、(特定の政治団体等の収支報告書の記載についての)虚偽記入罪は成立しない。派閥のパーティー券収入から議員個人が得た裏金が、仮に何年かで数千万円に上っていたとしても、政治資金規正法上は不可罰、ということになる。

検察側が考えるとすれば、議員側に、裏金を本来帰属させるべきであった団体を特定し、その団体の政治資金収支報告書の訂正を行わせることぐらいであろう。

しかし、「裏金」として授受されたものである以上、事後の訂正によって、当初の収支報告書を作成・提出した時点の認識としての「裏金」の帰属先が遡って特定されるわけではない。議員側と話をつけて、そのような対応に応じさせるとしても、金丸事件での「上申書決着」と似たようなものであり、本来の刑事処罰の在り方ではない。