政治家本人への寄附は禁止されたが…

検察の行ったことは何も間違ってはいなかった。政治資金収支報告書の作成の義務がない政治家本人への献金の問題について極めて軽い罰則しか定められていなかった以上、検察が当時、法律上行えることは、その程度のものでしかなかった。しかも、それを行うことについて、本人の上申書が不可欠だったのである。

金丸闇献金事件の後、政治資金規正法が改正されて、「政治家本人への寄附」が禁止され、「1年以下の禁錮」の罰則の対象となった。

しかし、政治家本人が直接受領した「裏献金」については、違法な個人宛ての献金か、あるいは団体・政党支部宛ての献金かが特定できないと、政治資金規正法違反としての犯罪事実も特定できず、適用する罰則も特定できないという、「政治資金規正法の大穴」は解消されておらず、その後も、政治家個人が「裏献金」で処罰された例はほとんどない。

長崎地検次席検事時代に立件した裏献金事件

一方、裏献金が刑事事件として立件され処罰された事例もある。

その初の事例となったのが、私が長崎地検次席検事として捜査を指揮した2003年の「自民党長崎県連事件」[拙著『検察の正義』(ちくま新書)の「最終章 長崎の奇跡」]である。

スケールと小槌
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この事件では、自民党長崎県連の幹事長と事務局長が、ゼネコン各社から、県の公共工事の受注額に応じた金額の寄附を受け取っていた。そして、幹事長の判断で、一部の寄附については、領収書を交付して「表の献金」として収支報告書に記載して処理し、一部は「裏の献金」として、領収書を交付せず、政治資金収支報告書にも記載しなかった(この「裏の献金」が、幹事長が自由に使える「裏金」に回されていた)。

この事件では、正規に処理される「表の献金」と同じような形態で「裏の献金」が授受されていたので、「自民党長崎県連宛ての寄附」として収支報告書に記載すべき寄附であるのに、その記載をしなかったことの立証が容易だった。「裏献金」事件を、初めて政治資金収支報告書の虚偽記入罪(裏献金分、収入が過少記載されていた事実)で正式起訴することができた事件だった。