なぜエラーが多かったのか

たとえば、エラーをした選手がベンチに戻ってきたとき、ベンチ内の雰囲気が、「まあまあ、いまのはしゃーないわな」「次、しっかり守っていこうや」という雰囲気になってしまったら、間違いなく次も似たようなミスをやらかす可能性が高い。これでは戦いに挑む集団としては失格である。

ベンチ内は試合に出ているライバル選手との争いを制する場である。同じポジションを守る控え選手にとって、レギュラーの選手がエラーをすれば、熾烈しれつなヤジを飛ばして当たり前。指導しているコーチにしてみれば、「なんべん言うとんじゃ、アホ!」と厳しく叱責しっせきしたっておかしな話ではない。

ところが、2022年シーズンまでの阪神はそうした雰囲気に欠けていた。ここ一番の勝負どころで致命的なエラーが出ていたのは、「いまのはしょうがない」という甘さがあったように思えてならなかった。それを引き起こした最大の要因が監督と選手が「兄貴と弟」だったからというわけだ。

その結果、5年連続で失策数がリーグ最多だった。兄弟間で野球をやっていれば、少々出来が悪い弟であったとしても、「いまのが捕れないのか。まあしょうがないか」と思うこともあるはずだ。だが、プロ野球の一軍の試合でそれをやってしまうと「情」になってしまう。

勝てる組織のあるべき姿

本来であれば、ミスした選手のプレーは一軍レベルではないので、いったん二軍に落として鍛え直さなくてはならないのに、情が入ってしまうことで、なかなか二軍に落とせずにいる。そうなると、5連敗、6連敗と大型連敗という負のスパイラルに陥ったときに選手に対して非情になれなくなってしまう。プロの世界で監督と選手が兄弟のような間柄で野球をやると、デメリットしかない。

江本孟紀『阪神タイガースぶっちゃけ話 岡田阪神激闘篇』(清談社Publico)

私は「エモやんの、人生ふら~りツマミグイ」というYouTube番組を持っており、そこに招いた多くの野球人に話を聞いて感じたことは、優勝するには監督と選手が「親父と息子のような間柄でなくてはならない」ということだった。かつて広島カープで黄金時代を築いた高橋慶彦は、当時の監督だった古葉竹識さんとの関係がまさに親父と息子だったという。大野豊も別のYouTube番組で同じことを言っていた。

また、西武ライオンズ(現・埼玉西武ライオンズ)の黄金時代の一翼を担っていた東尾修は、監督を務めていた広岡達朗さんや森祇晶さんとの関係を高橋や大野らと同様に語っていた。

このことに気づいた私は、あらためて岡田監督と選手の関係を見ていると、まさにこれに当てはまっていることがわかった。いまの時代、岡田のような監督は若い人から見れば「うざい」「時代にそぐわない」と感じるかもしれないが、勝てる組織とは、決して兄弟のような関係ではなく、親父と息子の姿が理想だと、みなさんに伝えておきたい。

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