「日本も難民受け入れを」という声もあるが…
これは、2016年にメルケル首相の主導で、EUがトルコに莫大な資金を提供し、中東難民がトルコの海岸からギリシャ方面に漕ぎ出すのを阻止してもらったのと同じやり方だ。チュニジアには、同国だけでなく、アフリカのサハラ砂漠以南の国々から命懸けで集まってきた人が集結しており、常時、EU密航を狙っている。ちなみに難民の中で犯罪率が高いのもチュニジアやモロッコなど、本来なら難民申請の対象とはなっていない北アフリカの出身者だ。
そもそも彼らが危険を冒してまで国を離れる原因は、貧困である。だから、チュニジア政府にお金を積んで出航を阻止してもらったところで、抜本的な解決にはならない。本来なら、現地の生産性を上げ、人々が出ていかなくても済むような援助が必要であることは、皆が百も承知だが、しかし欧米(日本も)とて戦後70年間、何もしなかったわけではない。特にアフリカには莫大な開発援助を注ぎ込んだが、それがいまだに実を結んでいないだけだ(それはアフリカだけのせいではないが)。
なお、日本はもっと難民を受け入れるべきだなどという声もあるが、ヨーロッパと同じ過ちを繰り返さなければならない理由はどこにもない。資金援助も、お金はどこかに蒸発してしまう可能性が高いので要注意だ。しかし、日本にできることもある。
その支援は、貧しい人々に行き届いているのか
例えば、経済発展を望んでいるアフリカ諸国に熱効率の良い火力発電所を建てること。電気は殖産興業に役立つばかりか、夜も灯りが確保でき、また、薪やら動物の糞でなく電気で調理ができるようになるだけで、人々の生活は画期的に向上する。
注ぎ込むエネルギーと出てくるエネルギーの対比は、19世紀に薪が石炭に置き換わったことで、一気に4倍から6倍も改善されたというが、今の石炭火力と薪なら、科学の進歩でそのエネルギー収支の対比は当時とは比較にならないほど大きいはずだ。しかも、現在の日本の火力発電所は、CO2の排出も画期的に改善されている。
どこの国でも、電気があってこそ産業が発展し、インフラが整備され、教育が向上し、情報が行き届き、民主主義も進んでいく。火力発電所の建設は真の援助として、難民受け入れよりもずっと効果的で、素晴らしい方法だと思う。ところが、発展途上国が切望しているせっかくの火力プラントに対し、日本政府はCO2を排出するという理由で融資を止めてしまった。
CO2削減は先進国の理念が結集したものだが、そもそも世界で本当に困った人たちを助けていない。先進国の人々は無視しているが、薪で調理をしている人たちにとっては、煤の健康被害のほうがCO2よりも危急の問題であることすら、先進国の人々は無視している。
日本政府が途上国を応援するなら、現地のエリートたちの利益ではなく、貧しい人々が本当に必要としているものを提供すべきだ。そして、それこそが回り回って、間違いなく難民の命を救うことにもつながる。