“入ってきた者勝ち”になっているドイツ

そんな中、今なおドイツだけが従来の方針を固持しており、それどころか、21年12月に社民党政権になって以来、難民擁護はさらにエスカレートしている。最近になって難民申請の条件も帰化の条件も緩和された上、審査中に殺人を犯した難民希望者でさえ、「母国に送り返すと死刑になるかもしれない」という理由で送還を拒否している状態だ。

ドイツは、政治的に迫害されている人を庇護するということを憲法に明記している唯一の国で、元々、難民には親切だったが、今ではまさに“入ってきた者勝ち”だ。

そんなわけで、これまでなかなか統一した難民・移民対策を編み出せなかったEUだったが、6月8日、ようやく各国の内相が集い、大筋の方針が合意を見た。結果を言うなら、今後、EUは難民受け入れにブレーキをかけることになる(これはドイツの影響力の低下とも無関係ではないだろう)。

新しい法案によれば、難民はこれまでEU域内のどこかに着地すれば、そこで難民申請ができたが、今後はEU国境が厳重に見張られ、難民(希望者)はEU域内に入る前に、国境のところに新設される施設に収容される。そして、脱走しないよう監視され、身元確認が行われ、難民として認められるチャンスがあるかどうかが審査される。

難民キャンプ
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「人道的」では成り立たなくなっている

その結果、あるとみなされた人だけが難民申請に進み、その他の人はEUには入れず、もちろん申請もできない。現在、密航の多いチュニジア、モロッコ、エジプト、バングラデシュなどからの難民希望者のほとんどは、ここで門前払いになるだろう。

もちろん、この法案にドイツは最後まで反対した。現内相は社民党のフェーザー氏だが、氏は子連れの難民に限り、国境での収監と審査を免除するよう強く主張。子供は学校へ行くべきであり、国境で閉じ込められ、犯罪者扱いされるのは非人道的であるという理由だ。

ただ、EUは現在、まさにこの「人道」を行き過ぎであるとして、縮小しようとしており、フェーザー氏の主張はあっさりと却下。法案が欧州議会に回った時点で、若干の修正はあるかもしれないが、無制限に難民を入れ続けようとするドイツはすでに孤立している。

もっとも現実問題として、難民希望者や不法入国者の母国送還は簡単ではない。新しい規則ができたからといって、彼らが素直に祖国に戻るはずはないし、罪を犯した難民でさえ、彼らの母国が引き取らない限り送り返せないのが現在の国際法だ。しかも実を言うと、国境のところに造るという施設も、EUの内側なのか、外側なのかさえ決まっていない。つまり、すべてが絵に描いた餅になる可能性もありうる。

そこで内相会議の3日後、EUは苦肉の策として、チュニジア政府に10億ユーロを援助し、その代わりに、チュニジア政府が海岸線を監視し、難民を出さないようにするという協定を結んだ。