甲板までぎっしりと人が埋まっていた
6月14日未明、地中海でリビアからイタリアへ向かおうとしている難民船が転覆し、500人超が死亡したとみられる。15日の段階で確認された死者は79人、救助されたのが100人ちょっと。
沈没したのは木造の漁船で、その存在は事前にギリシャ当局によって把握され、沈没の危険も認識されていたが、漁船はイタリアに向かうとして救助を拒否。過去に、難民が救助の船を見て、われ先にと船の片方に移動し、あっという間に転覆した例があったため、それも警戒していたのかもしれない。結局、ギリシャ当局は水の補給だけ行ったが、その時も船はかなり不安定になったという。
上空から撮影された写真では、甲板に人がぎっしりと立っている。この状態でリビアからギリシャの南岸まで辿り着けたことすら信じがたいが、生存者の話では、最大700人ぐらいが乗船していたとのこと。しかも、船倉に女性と多くの子供が詰め込まれていたという情報もあり、これが正しければ500人ぐらいが船と共に沈んでしまったことになる。助かったのは、実際に全員男性だった。
ただ、奇妙だったのは、今回はドイツ国内での報道がまるで違うこと。以前もイタリアの島の沿岸で数百人の難民が溺死した事故があったが、その時は、港に並べられた死体や、精神的に参ってしまった救援隊など、数日にわたって微に入り細を穿つように悲劇的な映像が流された。
なぜ今回は大きく報道されなかったのか
ところが今回は、過去最悪レベルの事故となりそうなのに、人権を声高に叫ぶNGOのコメントもなく、事実を淡々と報道するにとどまっている。その背景にあるのは、EU各国政府の難民政策の変化だ。そして、主要メディアはいつものごとく、政府に歩調を合わせているのだろう。あるいは、もう難民の悲劇は珍しくなく、ニュースの価値がないのかもしれない。
先月、この欄で、ドイツが難民でパンクしそうになっている深刻な状況について書いたが、もちろんその他のヨーロッパの国々も皆、難民問題では困窮している。密航ルートとなっている地中海のリビアとイタリア、およびリビアとマルタの間での死者・行方不明者の数は、今年はすでに最初の5カ月だけで1000人を超えた。
国境の管理というのは、主権国家の重要な仕事の一つであり、それが機能しないと、いったい自国に誰が何人住んでいるのかがわからず、国家の体をなさなくなるが、現在、EUはまさにその瀬戸際のところにいる。
元来、難民というのは、庇護を求めた国で正式に「難民」と認定された人たちのことを指す。つまり、ボートで密航を図ったり、国境に詰めかけたり、収容所に待機したりしている人たちは、まだ「難民」ではなく「難民希望者」だ。彼らが正式な「難民」と認定されるには、難民申請をして審査を受ける必要がある。