最初に作った映画のテーマ
新海は『彼女と彼女の猫』(1999)と『ほしのこえ』(2002)を“自作”している。「英雄伝説シリーズ」などで有名なゲーム会社日本ファルコムの社員として1996年から勤務しながら、夜な夜なアニメ制作を行った。
監督・脚本・演出・作画・美術・3DCG・撮影・編集・声の出演をすべて自分の手作業で仕上げているのだ。非常に内省的なプロセスであっただろう。
30歳を手前に「このままゲーム会社にいていいのか」というモヤモヤをかかえながら、ほぼ初期衝動そのもので完成させたのが『彼女と彼女の猫』であり、2001年の退社後に25分アニメとして完成させたのが『ほしのこえ』である。
「恋人と引き裂かれる切なさ」や「日常の風景・天気の美しさ」といった現在も貫く新海アニメのテーマはこの作品からすでに確立している。
『ほしのこえ』は単館上映ながらDVDは国内6.5万枚という売り上げを上げた秀作である。
ニッチながらも新海作品の世界観に心を打たれた10万人単位の深いファンが、日本にも海外にもこの時期(2000年代前半)から存在していたことは、特筆すべき実績だろう。
「二塁打がホームランに」
新海誠監督が描きたい“主題”はこの20年に出した9作のなかで、それほど変化していないように見える。『言の葉の庭』は『彼女と彼女の猫』の、『君の名は。』は『ほしのこえ』の語り直しの色合いが強い。メッセージや構図や関係性などはインディーズの時代から変わっていない。
だがそこに東日本大震災を想起させる社会的テーマを忍ばせ、マス向けには不釣り合いな枝葉の部分はうまく剪定した。
川村元気など名プロデューサーとのチームが組成され、RADWIMPSの劇伴など他のクリエイティブが秀逸に絡み合った上、東宝のような大手配給会社がバックアップしたことも大きい。(『言の葉の庭』は全国23館、『君の名は。』では試写会で東宝内での反応が良く一気に全国300館での封切りが決まり、『すずめの戸締まり』は420館だった)
その結果、「二塁打ぐらいいけばいいと思ってスイングすると、たまにあるじゃないですか、真芯に当たって場外ホームランみたいなことが。それが今回のケース(『君の名は。』)かなと思うんです[SWITCH SPECIAL対談 新海誠×川村元気(後編)]」と川村が評する事態に発展した。