新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり』が、中国や韓国で社会現象を巻き起こしている。どちらの映画市場でも「最もヒットした日本映画」となり、興行記録を塗り替えている。エンタメ社会学者の中山淳雄さんは「コロナ前まで約3000万人の訪日外国人が来ていたが、この3年間は来日できなかった。そうした日本好きの人たちの期待に応える内容だったことが、爆発的ヒットにつながったのではないか」という――。

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2023年3月19日、中国・上海のワンダシネマで行われた映画『すずめの戸締まり』のプレミア上映に出席する新海誠監督
写真=CFoto/時事通信フォト
2023年3月19日、中国・上海のワンダシネマで行われた映画『すずめの戸締まり』のプレミア上映に出席する新海誠監督

中国で最もヒットした日本映画になった

「宮崎駿監督とスタジオジブリ」、「細田守監督とスタジオ地図」と同様に、「新海誠監督とコミックス・ウェーブ・フィルム」が世界的なブランドになりつつある。

『すずめの戸締まり』(2022年11月11日本公開)が世界各国で記録的なヒットとなっている。海外市場で到達した高みは、日本映画史上かつて誰も経験したことのない社会的現象に発展している。

『すずめの戸締まり』公式サイトキャプチャ
出所=『すずめの戸締まり』公式サイト

日本に遅れること5カ月強、2023年3月24日にスタートした中国興行では、4月半ばに7億5200万元(約146.6億円、レートは公開当時。以下同)に到達。

これは「中国市場での最初の大ヒット日本映画」と言われていた『STAND BY ME ドラえもん』(2014)の5.3億元(約91億円)や、それまでの中国での日本映画記録を持っていた新海誠監督7作目の『君の名は。』(2017)の5.7億元(約94.6億円)を大きく飛び越えて、中国市場で最も売れた日本映画となった。

日本国内での『すずめの戸締まり』の興行収入は144.8億円(4月16日時点)なので中国のほうが売れている結果となっている。

世界で最も売れている日本の映画監督

記録的ヒットはこれだけにとどまらない。

中国より約2週間ほど早い3月8日に公開がスタートした韓国においても、これまでの観客動員数が469万人(4月17日時点)を突破し、韓国市場で最も売れた日本映画になっている。

『すずめの戸締まり』以前の同記録を持っていたのは、今年1月に公開された『THE FIRST SLAM DUNK』だった。同作の累積観客数は、現在449.6万人だ(4月17日時点)。

中国や韓国だけでなく米国も含めた「海外で最も売れた日本映画」でいうと、1位が『すずめの戸締まり』(2022)の1.7億ドル(約227.3億円)、2位は『君の名は。』(2016)の1.5億ドル(約163.2億円)となっている。

3位の『千と千尋の神隠し』(2001)が1.17億ドル(134.5億円)、6位の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020)が0.88億ドル(95.9億円)であることを見ると、今や新海監督が世界一動員力のある日本アニメ監督といって差し支えない状況である。(売上データ:Box Office Mojo by IMDbProから引用)

これはたった10年の間に中国の映画市場が、101億元(2010、約2000億円)→641億元(2019、約1.2兆円)と急成長したことが大きい要因といえる。ほぼ「世界最大の米国映画市場がもう1個できた」レベルだ。

加えて、2010年代後半に世界で動画配信網が爆発的に伸び、日本アニメが米国・中国を中心に世界中に浸透し、アニメの劇場版に足を運びやすくなっていることも影響している。

10~20年前とは日本アニメが規模も浸透度合いもケタ違い、という市場自体の変化が前人未踏の記録を後押ししていることは間違いない。