「もっときれいに拭いて」では意味がない

「彼女に優しくしてあげて」と言われたら、何をしてあげたらよいと思うでしょうか? いろいろな答えが浮かびますよね。

ところが、「ソファで居眠りしている彼女に、そっと毛布をかけてあげてください」という指示をすると、どんな人に頼んでも、行動はそう変わらなそうですね。つまり、具体的なことがらに落とし込んでいるので、ミスが起こりにくくなるのです。

レストランで、外国人のスタッフがテーブルを拭いているのを見て、店長が「もっときれいに拭いて」と言うのは、典型的な曖昧な言葉の使用例です。「ちゃんと」も「きれいに」も、どちらも曖昧なうえ、さらに文化背景が違えば、理解も大きく離れてしまいます。だから、何度同じ言葉で伝えても、伝わらないし問題も解決しません。

もし、「ダスターをテーブルの左上に置き、右上に向けて一直線に拭く。同じようにテーブルの右下まで拭く。終わったら今度は、縦に一直線に拭く」と言えば、ほぼ確実に理解できるでしょう。

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私も、シンガポールに拠点を移した時、多言語・多文化のなかでは、解釈の異なる言葉を使うと誤解やトラブルを起こす原因になると痛感しました。最近では異世代間でも文化背景がまったく違いますから、「若い子が言っていることがまったく理解できない」「おじさんの話している意味がわかんない」ということもしばしばですよね。だからこそ、曖昧さを極力残さないコミュニケーションが重要なのです。

動詞や数字を使ったほうがいい

曖昧さを回避するには、形容詞やオノマトペ(擬音語)を使わずに、動詞や数字を使うことをお勧めします。

世の中の親の口癖の一つが、「いい加減にしなさい!」だと思うのですが、子供からすると、「いい加減ってなんだろう?」なんですね。例えば、子供が夜遅くまでゲームをしていた場合、「いい加減にしなさい!」と言っても伝わらないでしょう。もう少し具体的に、「ゲームをやめなさい!」と言ったとしても、なぜやめなければいけないのか分かりません。「もう10時を過ぎたんだから、ゲームをやめて寝なさい!」と言えば、やめなければいけない理由と、なにをすればいいかを伝えられます。

あるラグビーの名コーチは、「ボールを投げるのが遅い!」ではなく、「パスをするのが3秒遅い!」と言って、選手を導いていたそうですが、これならどう改善すればいいのかよくわかりますよね。

さらに、「いつ」「どこで」「だれが」「だれと(に)」「何を」「なぜ」「どのように」、「いくらで」「どれだけ」という情報と、量、品質、コスト、納期、ルールの情報を具体的にすれば、曖昧さを減らしていけます。じつは、私も曖昧さを減らそうと、これらの情報を書き込む表を作って指示を出していたことがあるのです。

手間のほうが大きいのでやめてしまいましたが、コミュニケーションではそれくらい曖昧なことが多いのだと痛感しました。わからないことをいちいち確認するよりも、最初にすべて明らかにして始めるほうが、結果的に手間もかかりませんし、間違いも減らせます。お互いに心がけていきたいものです。

一流は動詞を使う
曖昧さを残さない