「異例づくめ」35歳で銀座のオーナーママに

35歳のとき、「Club かわにし」のオーナーママとなる。ホステス歴も銀座歴も4年半、スポンサーなし、自己資金だけで銀座にクラブをオープンするという、異例ずくめだった。

中高生の頃から質素な生活には慣れていたので、仕事で使う衣装や交際費以外は倹約し、すさまじいペースで出店資金を貯めていったという。

しかしまたしても、泉緒の身体に異変が起こる。いつものように営業開始前の準備をしていると、世界がグニャリと歪んだように見え、そのまま倒れた。脳梗塞だった。

医師は「絶対安静」を言い渡したが、泉緒はその日も出勤した。

物忘れ、めまい、顔半分の麻痺で片側だけが下がってしまう、吃音などの症状が出る中、客に悟られないように必死に隠しながら働いた。

今も泉緒は、どんなにアフターが長引いて就寝が3時、4時になったとしても、7時には起床している。

フルマラソンを三時間半で完走するほどの体力があるからできるという面もあるだろう。

しかしなぜ、病をおしてまでパワフルに仕事を続けるのか。それは、「この仕事はやりとげたい」という、泉緒の強い想いがあるからかもしれない。

コロナ禍を機に生まれた「新しい銀座のクラブ」

2020年3月、新型コロナウイルスが銀座の街を襲った。

泉緒は緊急事態宣言が発出される前に、年内はクラブの営業を行わないことを決めた。

銀座の中でも、特に早い決断だった。

そして、1年間の休業を経て2021年3月、店舗をソニー通りから銀座八丁目の並木通りに移し、再びオープンさせた。

雇われママ、そしてオーナーママとして働いたからこそ、見えてきたこともある。

たとえば、銀座に古くから残る慣習や流儀の理不尽さ。もちろん、伝統がすべて悪いものだとは考えていない。

しかし、不明瞭な料金設定や、売掛のシステム、一見さんはお断りの「会員制」ではない、新しいかたちの「銀座のクラブ」を、泉緒は生み出そうとしている。

新店舗には、スタンディングバー、ソファ席、VIPルームという3種類の席が用意されている。

スタンディングバーは、初めて銀座に来る方や、銀座の雰囲気を味わってみたい方に向けた席だ。

他のエリアやキャバクラと比べれば多少値は張るが、銀座のクラブとしては極めて安価な値段で飲める場を用意した。

また、すべての席の料金は明示されていて、ホームページでも公開されている。何時間いて、何をどれだけ頼めばいくらになるのか、客側も把握できる仕組みを作り、安心して飲める店づくりを意識したという。