飲酒による健康リスクに、男女差はあるのだろうか。産業医の池井佑丞さんは「男性や若年層の飲酒は減っている一方で、30代以上の女性だけ飲酒率が上がっている。しかし女性の体の方がお酒の影響を受けやすく、肝硬変やアルコール依存症にもなりやすい」という――。
ビールジョッキを持つ手元
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30代以上の女性だけ飲酒率が増えている

近年、飲酒離れが進んでいます。特に若い人ほどその傾向が強く、20代、30代では過半数が日常的な飲酒習慣をもたないとも言われています。ただ、全体として飲酒率や飲酒量は減少していますが、コロナ禍の影響で飲酒量が増えたという声があがっていたり、高アルコール飲料が人気となるなど、飲酒の状況は多様化しています。さらに最近では、女性の飲酒が増加していることも指摘されています。

日本の飲酒習慣者の男女年齢別割合を平成元年(1989年)と令和元年(2019年)で比較した結果、男性の飲酒習慣率はすべての年代で減少傾向にありますが、女性では男性ほど減少していません。むしろ、30代以上の女性の飲酒率は増加しています。増加割合は、30代では3.1%、40代では4.4%、50代では10.1%、60台では4.0%といずれも優位に増加しています。生活習慣病のリスクのある飲酒者(男性40g/日以上、女性20g/日以上アルコールを摂取している人)の割合についても、男性はほとんど変わっていないのに対し、女性は増加しているそうです(e-ヘルスネット「わが国の飲酒パターンとアルコール関連問題の推移」)。

女性の飲酒が増えた背景の一つとして、女性の労働人口が増加したことが挙げられます。男性と同じように働く女性が増えたことで、かつては男性中心であった“飲み”の場に女性が参加することは珍しくなくなりました。また、酒類業界では女性をターゲットにしたマーケティング展開が一般的になり、お酒のCMに若い女性を起用することも当たり前になりました。女性が男性と同じようにお酒を楽しめるようになったことは悪いことではありませんが、女性は男性よりも体質的にお酒に弱い傾向があります(その理由については後述します)。女性の飲酒では男性よりも少ない飲酒量で健康影響が出ることや、女性特有のリスクがあることを念頭に置いてほしいと思います。

「目安の飲酒量」は男性の半分

飲酒による女性特有のリスクをご説明する前に、国が推奨する飲酒量の目安についてご紹介しておきます。厚生労働省が推進する国民の健康増進方針「健康日本21」では、「節度ある適切な飲酒量」は一日あたり純アルコール約20g程度とされています。20gを超えると飲酒量に比例して死亡率が上昇することが、国内外の研究で明らかになっているそうです。ですが、この20gという数値は男性の身体を想定した値です。女性の場合は、男性の半分程度が適当とされており、純アルコール量10gになります(純アルコール量については商品パッケージやメーカー各社のWebサイトに記載がある場合が多いです)。