アルコール依存症は治療の難しい病気だ。治療を受けても約7割が禁酒を継続できず、再び酒を手に取ってしまう。そこで筑波大学准教授の吉本尚医師は「断酒」ではなく「減酒」を勧める専門外来を2019年に開いた。アルコール低減外来は内科や総合診療科に位置づけ、精神科以外での飲酒専門外来の開設は全国初となる。吉本医師に狙いを聞いた――。

「断酒治療」の1年後継続率はわずか30%

――「アルコール低減外来」ではどんな診療をしているのですか。

その名の通り、患者の飲酒量を低減するための診療を行っています。これまでのアルコール依存症の治療は、お酒を一滴も飲ませないようにする「断酒」が主流でした。たとえば断酒治療で有名な神奈川県の久里浜医療センターでは、患者は入院して平均約3カ月の時間をかけ、教育を受けながら生活を立て直します。

ところが、退院してから1年後も断酒を継続できている人はわずか30%しかいません。これは世界共通で、断酒を続けられるのはすごいことなのです。

ならば、うまくいかない人たちのためにもっとハードルを低くし、「低減」の言葉通り、うまく飲みながら治療をしていくことを視野に入れ、「本人と一緒により適した飲酒量を考え、健康行動につなげていく」ことを目指したのがアルコール低減外来です。

吉本尚医師
撮影=プレジデントオンライン編集部
吉本尚医師

精神科ではなくあえて一般内科で診療する理由

診ている患者は、北茨城市民病院附属家庭医療センターを例にすると、週に私の外来を受診する患者40人ほどのうち、アルコール関連の方は予約制で15人ほど。うち、新患の方は1~2人です。年齢層は20~80代と幅広く、平均年齢は50代後半くらい。女性は20%少々なので、一般的なアルコール依存症患者の比率(10%)より多めです。これは「低減」を掲げているからでしょう。

――なぜ精神科ではなく、内科に位置付けたのでしょうか。

アルコール依存症は、自分が依存症だと認めたがらない「否認の病」です。本人の同意なく、家族や周囲の説得で精神科に連れて行くのは大変ですし、そこでいきなり断酒と言われても、治療に前向きになれないケースが多々あるわけです。

2013年の調査(※)では、国際的診断基準による日本の潜在的有病者数が約57万人だったのに対し、実際に治療を受けていたのは約5万人というデータもあります。もっと治療の裾野を広げるためにも、患者さんが二の足を踏みやすい精神科ではなく、内科が窓口になる意味が大きいのです。

後で紹介しますが、実際に「精神科は嫌だけど内科だから来た」という患者もいます。

2018年に出た「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドラインに基づいたアルコール依存症の診断治療の手引き」でも、プライマリケア医や内科医などが初期対応を行うことで、アルコール依存症の早期発見・治療につながり、治療ギャップが少なくなることが有用と考えられるとの記述があります。

私はそれを読み、「これは自分が始めなければ、誰もやらないのでは」と思い、北茨城市民病院附属家庭医療センターでアルコール低減外来(当時は飲酒量低減外来)を始めたのです。

(※)厚生労働省e-ヘルスネット「わが国の飲酒パターンとアルコール関連問題の推移」