他にも、40代の女性は、子どもや旦那さんからいろいろ言われるため、飲酒量を70%ほどに減らして頑張っていました。それが正月などに多く飲むことがあり、幻覚が見えてしまった。動物が家の中を歩いていたといい、とても怖くなって酒をやめる決意をして、もう1年半続いています。つまり、減酒から断酒になったわけです。

これは本人が止めないといけないと思ったことで、断酒が実現した例です。飲酒行為は本人がやっていることなので、どうその気にさせるかが医者の腕のみせどころでもあります。

飲酒運転で来院した患者であっても決して否定しない

――先生は常に笑顔で、明るく話されますね。診察室での雰囲気もこのような感じなのでしょうか。

仕事なので白衣は着ていますが、雰囲気や言葉遣いが変わることはないです。私の外来を見学した同僚からは、「診療中も普段と同じ態度で診ている。きっとそれがアルコール依存症の患者さんに抵抗感を持たれない理由なのだろう」と言われています(笑)。患者さんは冷たい目で見られることや強制されることに敏感なので、受付も看護師もすべて、外来全体で常に和やかな雰囲気になるよう気を付けています。

中には、車を運転してきたはずなのに、呼気テストをすると引っかかる患者さんもいます。とんでもないことですけど、怒ることはありません。

「おぉ、残っているねー、どれくらい飲んだの?」なんて話をしながら雰囲気を作り、患者に寄り添います。もちろん、アルコールが抜けるまで車の鍵は預かりますし、捕まったりほかの人を巻き込んだりしたらどうなるかという事実はしっかり伝えます。

飲酒運転
写真=iStock.com/Daria Kulkova
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仕事も家族もない人は依存症から脱却しにくい

――患者の傾向や、アルコールの飲み方などの共通点、危険サインはありますか。

以前は仕事で失敗してクビになったとか、家族のトラブルを抱え離婚したなどの理由で、最終的に病院に来るという感じでした。最近は仕事もしていて家族もいる方が、メディアで紹介された記事などを読んでやってくる人が増えています。「いやー、酒量が多くてどうしようかと思ってて、ここを見つけて来ました」と自発的に来る感じですね。

正直な話、仕事も家族もない人は治療が難しい。酒をどうにかしようという動機が生じにくいからです。どちらかがある人は症状も軽い方が多く、治療しやすい。自分から来るくらいだからなおさらです。それでも、先ほどお話ししたような、依存症ならではエピソードは多々出てきます。

お酒は、習慣化するうちに酔いにくくなる傾向があるので、次第にアルコール度数の高いものになります。コストパフォーマンスの優れたもの、安くてアルコール度数の高いものを好みます。種類でいいますと、焼酎やウイスキー。4リットルなど大容量のものを3日で空けるという話も珍しくありません。日本酒は値段の高さからか、少ないです。手早く飲めるという点では、ストロング系の焼酎(チューハイ)も増えています。

アルコール依存症の危険サインとして挙げられるのは、ブラックアウト(記憶を失う、覚えていない)、転びやすい・ふらつく(高齢の方はとくに注意)、周りから飲酒を止めなさい、減らしなさいと言われる、昔の飲み方と違う、最近やたら絡む。怒りっぽくなるなどです。