白身魚にクランベリー、魚なしのヴィーガン寿司…
――そういう創作寿司の中で、「日本ではあり得ないけれど美味しい」みたいなのはありましたか。
びっくりしたのは、白身魚にクランベリーのジャムを合わせるというアイデアです。北欧ではお肉料理、ミートボールなどにベリーのソースを添えて食べるという文化があるのですが、フィンランド人のシェフが「お魚にも合うよ」というので、白身魚の下にワサビの代わりにベリーを挟んでお寿司にしてみたら、美味しくてびっくりしました。見た目も白身魚にベリーが透けてすごくきれい。日本だったらスダチなどの柑橘系の薬味を添えるものでも、ちょっとしたベリーやハーブを添えるなど、フィンランドの食材に変えてみるのも意外と合うんだなとわかりました。
人気の1位はサーモンで、意外とウナギも人気ですね。あと、アボカド寿司もとても人気があります。ただ、生魚を食べるということ自体にまだ抵抗があるという方もいるので、『あぶり』スタイルも人気があります。たとえばカツオなど魚の味が強い食材は、アレンジしてソースを使うことも。ローカライズされたお寿司が多いので、そういったものだと受け入れてもらいやすいようです。日本のように醤油だけでシンプルに魚の味を楽しむというよりかは、フィンランドに寄せた調理方法で普及している印象があります。
またこちらのお寿司屋さんの特徴として、ヴィーガン向けのメニューがすごく充実していて、新メニューを開発するときは必ずヴィーガン向けのお寿司も考案します。お寿司屋さんに、一切魚を食べられないお客さんがけっこう来るんですよ。ランチタイムのときに、「ヴィーガンなんだけどいい?」って、野菜系の寿司を10種類作ってほしいと言われたりします。
日本では「飯炊き3年、握り8年」と言われるが…
――海外への転職というと、やはり働き方も違うのでしょうね。
寿司職人としては、ほんとに何でも任せてもらえます。私はフィンランドに移住するために、寿司職人養成学校に通いながら、寿司屋でのアルバイトを掛け持ちしていました。アルバイト先ではいろんな経験を積ませてもらったのですが、それでも日本では一から修業すると、「飯炊き3年、握り8年」という世界だと感じました。
でもこっちに来ると日本人でお寿司ができるんだったら、「君はもうスシマスターだ」といわれます。
厨房でも20キロぐらいの大トロのブロックを、「さばいてみて」など、日本だと大将がするような仕事がどんどん任されます。若いときから大きな経験を積んでいけるというのはシェフとしてすごく楽しいし、責任が重くてもその分成長
「彼氏と別れたから1週間休みます」
さらにもうひとつは、「仕事はパート・オブ・ライフだ」という考え方がすごく根っこにあると感じます。
これはボスの口癖でもあるのですが、「もちろん仕事は大事なんだけれども、一番は自分の人生、家族、そういうところを大事にしてほしい。だからこそ健康は大事だし、休みもちゃんとケアしていこう」。
だから1カ月の夏休みがあるし、プライベートで辛いとき、たとえば彼氏と別れて悲しいから1週間働くことができなさそうだ、というシェフもいました。仕事に何か支障があるような出来事があれば、詳しいことは言わなくていいけど、助け合うためにもそういうメンタルな状況であることはシェアしてほしい、言われます。
また、直近で辞めたシェフたちが立て続けにシェフ以外の仕事もしてみたいと、学び直しで学校に通っています。そのように仕事と学びをシームレスに組み合わせながら、自分のライフスタイルを作っていくという生き方をシェフたちから学びました。