AIが人間の仕事を奪う可能性はあるのか。駒澤大学の井上智洋准教授は「アメリカでは、資産運用アドバイザーや保険の外交員、証券アナリストなどの雇用が減り続けている。日本でも画像生成AIの登場で、デザイナーやイラストレーター、画家の仕事が奪われる恐れがある」という――。

※本稿は、井上智洋『メタバースと経済の未来』(文春新書)の一部を再編集したものです。

人間対人工知能の概念
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AIブームが過ぎ去ったいまが「本番」

現在、第四次産業革命が起こりつつあると言われています。その中でいちばん重要な技術がAIです。2016年からAIブームが起こり、コロナ前の2019年頃にはおよそ収束して、かわりに「DX(※1)」(デジタル・トランスフォーメーション)というロボットアニメめいたかっこいい(ちょっと恥ずかしい)キャッチコピーがビジネス界を席巻しています。

とはいえ、DXとは「AIを含めてデジタル技術をもっと活用していきましょう」という趣旨のコンセプトなので、名前がすりかわっただけでAI活用が重要だという点は変わりません。技術の導入は、むしろブームが過ぎ去ってからが本番なのです。

アメリカのガートナー社が毎年発表している「ハイプ・サイクル(※2)」というテクノロジーが登場した後の動きを視覚的に説明した図があります。図表1はそのイメージであり、実際には、「AI」だとか「5G」といったような技術がグラフの上にプロットされています。

ある技術が登場したばかりの時期には大きな期待が寄せられます。AIに対しても、「過度な期待」のピーク期には、人間並みの知性を備えた汎用はんようAI(※3)が近々実現するとか、それをロボットに組み込めばドラえもんのようになるとか、ごく近い将来に革命的なAIが生まれるというようなことがまことしやかに語られました。

(※1) DX(Digital Transformation) 企業がビッグデータやAI、IoTをはじめとするデジタル技術を活用して、業務プロセスの効率化のみならず、ビジネスモデルや企業風土の変革なども実現すること。2004年にスウェーデンのエリック・ストルターマン教授(情報学)によって提唱された概念。
(※2) ハイプ・サイクル(hype cycle) テクノロジーとアプリケーションの成熟度と採用状況、およびテクノロジーとアプリケーションが実際のビジネス課題の解決や新たな機会の開拓にどの程度関連する可能性があるかを図示したもの。1:黎明期、2:「過度な期待」のピーク期、3:幻滅期、4:啓発期、5:生産性の安定期の5段階によって構成される。出典:ガートナーリサーチ・メソドロジ ハイプ・サイクル。
(※3) 汎用AI(Artificial General Intelligence; AGI) 人間のように学習して言葉や物ごとを理解、習得する汎用的な能力を持つという未来の人工知能。