なぜ日本経済は低迷をつづけているのか。駒澤大学の井上智洋准教授は「企業も政府も、投資せずに守りに入るデフレマインドに陥っている。これを打開するには、メタバースに積極投資してメタバース先進国になるしかない」という――。

※本稿は、井上智洋『メタバースと経済の未来』(文春新書)の一部を再編集したものです。

デフレーション/インフレーションと書かれたサイコロを回す手
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人手不足でも企業が賃金を上げないワケ

賃金が上がりにくくなるメカニズムは、一見簡単に見えて若干複雑です。

賃金には「上がりやすく下げにくい」という性質があります。なぜなら、賃金を上げたら労働者が喜ぶので上げるのは簡単です。逆に、賃金を下げるときには労働者から猛反発を受けるので下げるのは難しい。例えば、これまで1000円だった時給を来月からは950円にすると言うと、誰もが怒ります。

ところが、デフレが長く続いているなかで少し景気が上向いて来たので賃金を上げようと考えても、その先景気が悪くなっても下げられなくなるので、それならもう上げるのはやめようと企業側は思ってしまうわけです。

逆にインフレならば賃金を上げたとしても、物価の方も上昇していくので、調整がしやすいわけです。賃金を据え置きにしておいて物価が上昇すれば、実質賃金は勝手に下落してきます。しかしデフレだとその調整ができないので、そもそも賃金を上げないでおこうという気持ちが働いてしまう。

要するに、デフレが長く続いたために企業は賃金を上げたくないという「デフレマインド」に陥ってしまっているのです。例えば運送業界や建設業などに多くみられるように、需要が増え、人手が不足しているにもかかわらず賃金を上げるのをためらう企業は少なくありません。賃金を上げればもっと人が来るかもしれないのに、上げずに、人手不足が続いていると言っているわけです。

これは経済学者に言わせればおかしな話です。人手が不足しているならば賃金を上げればいいと思われるのですが、それにもかかわらず上げない理由は、まさにデフレマインドにあるのです。