金融業界はこれからどうなるのか。ジャーナリストの河合雅司さんは「最大の課題はIT人材の確保だが、IT人材に対する日本企業の処遇は世界各国と比べて高くない。人材確保に失敗すれば、これまで築き上げてきた『信用力』という資産を失うことになるだろう」という――。
※本稿は、河合雅司『未来の年表 業界大変化』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。
安くて便利なネット銀行の台頭
日銀のマイナス金利政策導入や人口減少に伴う国内マーケットの縮小で収益低下に苦しむ銀行業界だが、デジタル化の波によってネット銀行が登場し、既存の銀行のビジネススタイルが大きく変わってきている。
多くの説明を要しないだろうが、ネット銀行は利用者が所有するスマートフォンやパソコンが「銀行の窓口」である。いつでも、どこにいても振り込みや残高照会といった銀行手続きが可能なサービスだ。
こうした利便性に加えて、実店舗をほとんど持たないことにより手数料も既存銀行より割安である。キャッシュレス取引が社会に定着してきたこともあって、いまやデジタルネイティブ世代だけでなく、幅広い世代に普及している。
メガバンクは急ピッチでコスト削減へ
ATM手数料の相次ぐ値上げを嫌ってネット銀行への乗り換えが進んだことに、既存銀行は危機感を強めている。とりわけ、人口減少によるマーケットの縮小ペースが速い地方銀行は深刻だ。各銀行ともインターネットバンキングサービスの拡充を図り、顧客の取り戻しに懸命である。ネット銀行の普及に背中を押される形で、金融業界全体が取り組み始めたということだ。
もちろん、既存のビジネススタイルのまま、インターネットバンキングを強化するのは非効率である。ということで、各銀行はコストの削減に取り組んでいる。メガバンクをはじめとする大手銀行を中心に店舗網やATM網の大胆な統廃合が急ピッチで進んでいるのもこうした要素が大きい。