※本稿は、河合雅司『未来の年表 業界大変化』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。
まさに花盛りのエンディングビジネス
「多死社会」の到来といえば、葬儀業こそ追い風が吹きそうである。
人口減少で国内マーケットが縮小する中、需要の高まりは確実だ。相続税対策などを含めた「終活」ブームは依然として続いている。
数少ない成長分野とばかりに異分野から葬儀業界へと参入する動きは活発化しており、コンビニエンスストアや飲食店の跡地を改装して小規模な斎場に生まれ変わらせるといったところまである。生前に少しでも遺品整理をしておこうと、60代以上のシニアによるインターネットの中古品市場への出品も増えている。
従来の葬儀社に顧客を紹介することで手数料を得るネット葬儀社も存在感を増している。エンディングビジネスはまさに花盛りである。
死亡者は増えるのに、市場規模は伸びない?
矢野経済研究所の「葬祭ビジネス市場に関する調査」(2021年)によれば、記録のある2010年の1兆7057億円以降、市場規模はゆるやかに拡大してきており、コロナ禍前の2019年には1兆8132億円となった。その内訳は、葬儀費が1兆2766億円、通夜振る舞いや精進落としなどの飲食費が2703億円、返礼品費が2663億円だ。
2020年は新型コロナウイルス感染症の逆風を受けて1兆5060億円に縮小した。葬儀の場合にはイベントとは違って「感染症が収まるまで延期」というわけにはいかない。だが、政府の行動制限が出されたため、たくさんの参列者が集まる従来の葬儀が少なくなったのだ。代わりに、身内だけの葬儀が増えて市場規模が極端に縮んだということである。
同研究所は、2021年については1兆6179億円に回復すると予測している。
しかしながら、2030年になっても2021年と比べてわずか4.8%増の1兆6959億円にしかならないとの見通しを示している。死亡件数の増加によるマーケットの拡大が確実視されているというのに、コロナ禍前の2019年水準まで戻らないとの見込みにしているのはどうしてだろうか。