2045年にはAIが人間を追い越す?

AIの知性が人間の知性を追い越すという「シンギュラリティ(※4)」(技術的特異点)論も流行りました。アメリカの著名な発明家で未来予測家のレイ・カーツワイルさんは、シンギュラリティが2045年に到来すると予測しています。

カーツワイルさんによれば、2015年の時点では1000ドル(約15万円)で買えるコンピュータの計算速度はネズミの脳と同程度でしたが、2025年には人間一人の脳に、2045年には全人類の脳すべてに匹敵するようになるといいます。

つまり2045年には、家電量販店で気楽に買えるパソコン一つで、全人類分の脳と同等の情報処理ができるようになるということです。しかし、15万円くらいの手軽に買えるパソコンという基準はぼんやりしたものですから、2045年という数字に大きな意味はありません。

(※4) シンギュラリティ(singularity) 「技術的特異点」のこと。アメリカの発明家で人工知能研究家のレイ・カーツワイルが示した未来予測の概念。

AIの「知能爆発」は簡単には起こらない

シンギュラリティの発生を説明する仮説として「知能爆発」というものがあります。これは、AIが自分より少し賢いAIを作れるとするならば、その賢いAIがさらに自分より賢いAIを作り、と高速に繰り返していくことで、あっという間に神のごとき超AIへと進化を遂げるようになるという仮説です。

おそらく知能爆発が簡単に起きることはないでしょう。AIがAIを作れるようになったとしても、自分より賢いAIを作れるようになるかというと、それはまた別の話です。私たちは、何をもって賢いと言うのかすらはっきりと定義づけできずにいます。定義によっては、自分より賢いAIを作るAIを私たちが作ることは原理的に不可能であるかもしれません。

そのため私自身は、AIがあらゆる面で人間の知性を上回ることは、当面の間はないと考えています。人間にそこそこ近い知能をもった汎用AIが2030年くらいに登場してもおかしくはないけれど、そこからさらに人間に似せる作業が延々と続くものと予想しています。

代わりに起こり得るのは「脱労働社会」

私が、シンギュラリティが起こるという場合、それはAIが人間の知性を追いこすということではなく、汎用AIなどのAIによって人間の労働の多くが置き換えられるような経済の劇的な変化である「経済的特異点」を意味しています。