例えば、支払わなければならない残業代が10万円で、固定残業代として支払った金額が5万円だったとします。この場合、適法な固定残業代として認められれば、追加の支払は5万円で済んだのに、対価性や判別可能性が認められないことで、「あなたは5万円支払ってはいますけど、それは残業代の支払とは認められないので、改めて残業代として10万円支払ってください」という判断がなされてしまうのです。
会社にとって安易な制度利用はデメリット
また、適法な固定残業代と認められなかった場合、固定残業代として支払っていた5万円は、残業代を計算する際のもととなる賃金に含めなければならなくなるため、会社が支払う残業代の金額は増えることになります。
具体的には、残業代は、「時間単価×割増率×残業時間」で計算されるのですが、「時間単価」は、月給制の場合、「月額賃金」÷「年間の所定労働日×1日の所定労働時間数÷12カ月」で計算されます。例えば、正しく固定残業代を支払っていた場合、月額賃金は30万円とすれば済むところ、5万円が固定残業代と認められなかった場合には、月額賃金を35万円として計算しなければならなくなるのです。
これまでに支払っていた手当が残業代とは認められず、改めて支払う残業代も、高い賃金をもとに計算されてしまう――。会社にとっては文字通りダブルパンチのダメージです。
このように、固定残業代制度は、安易に利用してしまうと、かえって会社にデメリットをもたらしてしまう可能性もあります。
固定残業代制度は、個々の会社によって、その内容が大きく異なりますが、しっかりとした制度を構築することができていない会社が意外と多いように思います。
自社で固定残業代制度を導入している場合には、今一度、自社の制度に問題がないかどうか、よく確認していただければと思います。