なぜ日本人の給料は上がらないのか。第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣さんは「日本経済が苦しいのは過去の円高による物価下落が原因。それにもかかわらず、利上げを進めれば、日本経済にブレーキをかけることになる」という――。

※本稿は、永濱利廣『給料が上がらないのは、円安のせいですか?』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

黒田東彦日銀総裁、2022年10月28日
写真=時事通信フォト
2022年は大幅な円安となったが……(黒田東彦日銀総裁、2022年10月28日)

「51年ぶりの円安」の正体

【やすお】「51年ぶりの円安」とニュースで見たので気になって調べたんですが、51年前(1972年)はまだ固定相場制で、1ドル300円台ですよね。僕の勘違いでしょうか。

【永濱利廣(以下、永濱)】いえ、間違いではありません。「実質実効為替レート」で見ると、51年ぶりの円安なのです。

【やすお】実質実効為替レートとは何でしょうか?

【永濱】自国の通貨は他国通貨と比べてどのぐらい購買力があるのか、対外的な購買力を示したレートです。

為替レートが円高になると、海外のものが円建てで安くなるので、買いやすくなる。ただ、本当に買いやすくなっているのかは、実は為替レートだけではわかりません。

【やすお】え、そうなんですか?

【永濱】はい。日本よりも海外の物価が上がっているかどうかも関係してくるからです。

たとえばアメリカと日本で比べた場合、為替レートが1ドル150円から、5年後に1ドル100円の円高になったとしましょう。

これだけで見ると、アメリカで10ドルで売っていた商品が1500円から1000円で買えるようになりますよね。

【やすお】はい。そうですね。

【永濱】ところが、アメリカの物価が2倍になり、日本の物価がそのままだったとしたらどうでしょうか。アメリカで10ドルで売っている商品は5年前に5ドルで売られていた商品です。日本円にして750円の商品ですね。

これが1000円で買えるようになっても、安くなったとは言えませんよね。

【やすお】買いやすいどころか、買いにくくなっちゃってますね。