宗教にのめり込んでいく母親

母親が入信すると、3歳の時任さんと妹は少しずつ教団施設に通うことが増えていった。

「子供の頃の教団の印象は、“ひたすら怖い場所”でした。入ったらダメな部屋も触ってはいけない物もいっぱい。座る時に足やお尻を向けてはいけない場所や、一定の階級の人しか触ってはいけないものなど、教団独特のルールもたくさんあります。『入っちゃだめ!』『触っちゃだめ!』と知らない人から怒られることが恐怖でした」

教団施設は繁華街にある古いビルの一角。時任さんと同じ年頃の子供も何人かいたが、入信してもすぐに辞める人も多く、子供同士名前を覚える前に来なくなってしまうことも少なくない。

また、教団内には「子供と親が離れられないのは悪いことだ」という考え方があり、意図的に引き離されることも多く、引き離された小さい子はみんな泣いていた。それでも、「子供は親と引き離すと初めは泣くが、その後、放っておくと諦めて大人しくなる」という考え方があったため、母親だけでなく、他の大人からも放置されていた。

3歳と1歳の時任さん姉妹は、母親と離されることがとても怖く、姉である時任さんは、幼い妹が寂しくて泣いているのを見るのも悲しかった。

ある日、時任さんは、当時教団内で時任さんたちをよく怒っていた女性の出家者から、「この前お母さんと離れられなくてずっと泣いている女の子がいたから、あそこの部屋に1時間閉じ込めたら静かになった」と聞かされた。

「『自分も閉じ込められたらどうしよう』という恐怖がありました。のちに、閉じ込められた女の子は妹だったことが判明したのですが、大人になってから母に、『あんたは甘えすぎていたから、真っ暗な部屋に閉じ込められたことがあった』と言われたことで思い出したそうです」

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教団内では、大人も泣いていた。そんな大人に対し、「応援してあげて!」と時任さんは言われ、その人の周りで「がんばれ!」と声をかけさせられることもあった。

「母も修行中によく泣いていました。その時も『お母さん頑張って! って応援してあげて!』と言われ、応援した記憶があります。子供にとって自分より強い存在であるはずの母が泣いているのはとても怖いことで、いまだに母の泣く姿を覚えています」

時任さんは正直、教団なんかに行きたくなかったが、父親が家に寄り付かず、全く育児に参加しない状態では、母親について教団に行く選択肢しかなかったのだ。

時任さんが幼稚園に入ると、平日の日中は幼稚園、土日と平日の夜はたまに教団、という生活になっていった。夜に教団施設に行くようになってからは、昼近くに起床する夜型生活に。休日に家族で遊びに出かけることはなかった。