ゲーム広告をテレビで流せない企業が取った「裏技」
ここまで、中国製ゲーム広告のストーリーが単調である理由を示してきた。
それではこうした広告のルーツはどこにあるのか。
重要な前提は、中国ではゲーム広告をテレビで放送することは違法であるということだ。2004年4月21日に発布された「電脳網絡遊戯類番組の放送禁止に関する通知」(关于禁止播出电脑网络游戏类节目的通知)で禁止されている。これを受けて2006年にグレーゾーンを突くように登場したのが、中国ゲーム会社「巨人網絡」が自社ゲームをテレビに載せるために出した「征途網絡、網絡征途」という広告である。
この広告は15秒の非常に短い映像で、女性がパソコンを前に大声で笑ったり机を叩いたりする映像の後ろで「征途網絡、網絡征途」というナレーションが入り、最後に画面が切り替わって大きく「征途網絡」と書かれる、というだけの内容だ。
ゲーム画面は一切なく、女性の笑い声とナレーションだけ。非常に印象的ながらも、これだけを見ても何の広告か分からない。そこで携帯やPCで検索すると、ブラウザゲーム「征途」が表示されるのだ。
リテラシーの低い人を「洗脳」する
この広告手法は非常に成功した。2006年当時、中国では中国ゲーム会社「盛大」の「傳奇」とアメリカゲーム会社「Blizzard Entertainment」の「World of Warcraft」が市場を二分しており、征途の入り込む余地はなかった。ところが、この広告の効果もあったのか、征途は2007年度では2億900万ドルの収益を上げ、中国ゲーム市場の6分の1を占めるほどに急成長した。
この広告の仕掛人は先述の巨人網絡の創業者である史玉柱氏の手腕によるものが大きい。史氏は中国で最も売れている健康食品「脳白金」という高齢者向けの脳機能活性商品の仕掛け人として知られている。そして脳白金が人気になったのも、テレビCMの効果だったといわれている。
商品を写さずに、高齢の男女が踊ったり歌ったりする映像や、「季節のお土産は結構、脳白金ならもらう」というセリフが入るだけの構成など、前述した「征途」の広告に似ている。このようにセリフを連呼することで視聴者に印象を残す手法を中国では「洗脳(しーなぉ)」と呼んでおり、中国では盛んな宣伝手法となっている。
中国全土が同じ知識、文化、映像に対するリテラシーを持っていないということも影響していると思われる。