※本稿は、アンデシュ・ハンセン著、御舩由美子訳『運動脳』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
運動すればIQも高まるという夢のような話
運動によって大人でも子どもでも脳を劇的に変えられることがわかってきたのは、ここ数年のことだ。運動をすれば心が落ち着き、ストレスにも強くなる。そして記憶力や創造性、集中力といった認知機能も高まる。この認知機能を総合したものが、「知性」だ。
認知機能が運動によって高まるのなら、IQ(知能指数)も同じように上がると考えていいはずだ。だが、本当だろうか。運動をすれば頭もよくなるのだろうか。もしそうであれば、まさに夢のような話である。
運動をすると頭がよくなるのか――科学者たちは1960年代に、すでにこの問いに答えを求めているが、それを証明することはきわめて困難だった。彼らの前に「ニワトリが先か卵が先か」問題が立ちはだかったのである。
たとえ体力的にすぐれた被験者が高い知能を備えていることがわかっても、それが運動によるものか、あるいは、もとより知能の高い者が単によく運動をしていただけなのかは判断できなかったのだ。
だがのちに、この問題は、スウェーデンの120万人を超える男性から得たデータによって解決される。
2010年まで、スウェーデンでは18歳の男子全員に軍の入隊検査を受けることが義務づけられていた。
入隊検査では、1日かけて様々なテストが行われた。たとえば体力を測るために使われたのは、抵抗が徐々に強くなるフィットネスバイクのペダルを限界までこぐテストだった。
私自身も経験しているが、バイクを降りたときにはほとんど立っていられないくらい、かなり体力を消耗したのを覚えている。続いて筋力テストが行われる。そのあとには、心理テストがあった。そして、最後に知能検査が行われる。
26年以上にわたって、120万人以上の18歳の男子が、このテストを受けた。そして、最近になって結果がまとめられ、その資料により、非常にはっきりとした相互関係が明らかになった。
身体のコンディションの良好な、または体力のある若者は、おおむね知能もすぐれていたのだ。
つまり、体力テストの結果がよかった新兵は、そうでない新兵よりも知能指数が高かったのである。