理的思考力と言語理解力が大きく向上する
とはいえ、その若者たちは、運動で身体を鍛えていたために知能が高かったのだろうか。それとも、たまたま高い知性の若者が、ほかの若者たちより運動をしていただけなのか。この問題を解決するため、研究チームは一卵性双生児のデータに着目した。
知能指数を最も説明できる要素があるとすれば、それは両親の知能指数だ。知能は遺伝性が高いことで知られている。
一卵性双生児はそっくり同じ遺伝子を持ち、たいていは同じ家庭で育つ。そのため一卵性双生児が知能検査を受ければ、知能指数にはほとんど差が出ない。
この一卵性双生児が、新兵およそ100万人のうち1432組いた。そのなかには片方が体力的にすぐれ、もう片方は体力的に劣る双子もいた。それでも一卵性双生児なので知能指数に差はないと思いきや、予想は裏切られた。
一組の双子で体力的にすぐれているほうは、体力が劣る兄弟よりも、おしなべて知能指数が高かった。となれば一卵性双生児でも、体力の違いで知能検査の結果に差が出るということだ。
総合的に見れば、あらゆるデータは同じ結論に行きつく。運動をすれば頭がよくなるのだ。だが、知能指数の高さと相関性があったのは持久力のみで、筋力とは無関係だった。筋力テストの結果だけがよかった新兵は、知能検査ではよい結果を出さなかったのだ。
知能検査で測れる能力は、いくつかに分類できる。たとえば「言語の理解力」「数学的思考」「論理的思考」「3次元的な図形の認識」などだ。
そして、こういった能力のすべてが体力と関わっていることが判明した。とりわけ相関性が強いのは、「論理的思考力」と「言語の理解力」だった。
「論理的思考」と「言語の理解力」にとくに関わっている部位は、2つあることがわかっている。海馬と前頭葉だ。この2カ所は運動の効果が最も出る部位だが、それは運動で論理的思考力と言語理解力の2つが大きく向上することと、「論理的にも」一致する。
勉強だけでは「高学歴」「高収入」は望めない
運動と知性の関係を研究していた科学者にとって、入隊者のデータはまさに宝の山だった。
たとえば18歳のときに体力に恵まれていた若者は、その後何十年にもわたってその恩恵をこうむっている。高い学歴を経て、(40歳前後の時点で)報酬に恵まれたよい仕事に就いていることがわかったのである。
また、うつ状態になる率も低かった。記録では未遂も含めて自殺者が少なかったため、臨床的なうつ病の発生率も低いと思われた。
精神疾患を患った者がいないこと以外にも、脳が様々な恩恵を受けていることは明白だった。18歳のときに体力に恵まれていた若者は、てんかんや認知症を発症するリスクも少なかった。
そういったメリットのすべてが、18歳のときに身体が鍛えられていたからだというつもりはない。ただいえるのは、おそらく18歳のときに身体が鍛えられていれば、30歳や40歳になっても脳も身体も健康である可能性が高いのだろう。