機関投資家が株式市場のメインプレイヤーに
こうした年金基金の確立は、社会の在り方を大きく変えることとなった。具体的には、「投資家」の構造が大きく変化した。
上場株式全体の株主比率は1955年には非機関投資家が72.8%、機関投資家は20.8%だった。それが1980年には非機関投資家が59.7%、機関投資家が30.7%と差が大幅に縮まる。その間、発行済株式残高は全体で約5倍にも伸びた。
それに対し、企業年金基金の保有額は、わずか25年間で60億ドルから1758億ドルへと30倍にもなった。公務員年金基金も個人型年金基金も保有額を大幅に増やしていった。
今日、年金基金が株式で投資運用をしていると聞くと、「私たちの大事な年金資産が、金融市場という危険なところで運用されている。なんたることか」という反応をする人もいる。しかし、2019年の時点で、世界の上場株式市場全体に占める機関投資家の株式保有比率はすでに41%にもなっている。米国上場株式市場だけに限ってみれば、なんと72%だ(*13)。
もはや、株式市場は「怪しい人たちのマネーゲームのための市場」ではなく、むしろ機関投資家自身がメインプレイヤーの地位にある。
「労働者一人ひとりが投資家」という時代
あらためて機関投資家とは誰のことか。年金基金や保険会社、運用会社は、自分の資金で投資運用を行っているのではない。顧客から委託されて投資運用を代行しているだけだ。では誰が顧客なのかというと、年金加入者であり、保険加入者であり、投資信託の購入者だ。
それらは、言うなれば一般市民だ。そして、年金基金の創設を切望したのは当の労働者自身だった。
さて、そろそろ私たちは、マルクス主義の「資本家」の概念から決別しなければいけないときがきている。マルクス主義が想定していた人格としての「資本家」は、実質的にかなりの少数派になっている。
今や資本家とは、強欲で搾取してくる、あの遠い存在の企業経営者や富裕層ではない。労働者一人ひとりが投資家なのだ。私たちは、気づかない間に、資本主義社会の投資家側の役割を担うようになっている。
企業の支配関係でも同じだ。グローバル企業が見えない力で私たちを支配しているのではない。私たち一人ひとりが投資家としてグローバル企業を支配しているのだ。
(*13)OECD (2019)“Owners of the World’s Listed Companies”