中枢神経に関連する症状が多数報告されている

この病院は米国で新型コロナウイルス患者の死亡例を報告した最初の病院で、神経学的所見は295人でみられ73%にのぼりました。そのうち中枢神経症状は204人(52%)でみられ、多い順に精神症状、頭痛、めまいでした。

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米国ミシガン州からの報告もあり、こちらは2020年3月1日から同年5月31日の間に集中治療室に入院した比較的重度の148人の患者を対象としています(*3)。せん妄は平均年齢58歳の73%の患者で認められ、その持続期間は4~17日で中央値は10日でした。

さらに、入院中にせん妄を発症していた患者の中で退院後の調査をしたところ、24%は自宅に退院した後にもせん妄が出現しました。また、23%は認知症を疑わせる持続した認知機能障害がみられ、12%は退院後2カ月以内にうつ状態と診断されています。せん妄は70歳以上の高齢者で出現しやすいことは知られていますが、平均年齢58歳の中高年でもせん妄を起こし、それが退院後も遷延するという現象が注目されました。

そして、スペインからの報告ですが、2020年3月に入院した新型コロナウイルス感染と診断されたすべての患者を体系的に見直しました(*4)。平均年齢66歳の841人の患者のうち、57%が何らかの神経症状を発症しました。

たとえば、筋肉痛、頭痛、めまいなどの非特異的症状のほとんどが、感染初期段階で存在していました。嗅覚障害と味覚障害は早期に発症しやすく(最初の臨床症状として60%)、軽症例で頻度が高い傾向がありました。意識障害やせん妄は、主として高齢患者や重度例で発症しました。

(*3)Ragheb J, et al. Delirium and neuropsychological outcomes in critically Ill patients with COVID-19: a cohort study. BMJ Open 2021; 11: e050045.
(*4)Romero-Sánchez CM, et al. Neurologic manifestations in hospitalized patients with COVID-19: The ALBACOVID registry. Neurology. 2020 Aug 25; 95(8): e1060–e1070.

重症患者の約7割にせん妄が出ることが判明した

急性期にはコロナ感染症例の約20~70%が何らかの中枢神経障害を起こしており、脳血管障害、頭痛、意識障害、せん妄、めまいなどを引き起こしています。

特に集中治療室の重症患者の約70%にせん妄が出現することも判明しました。これに関しては感染予防のため、患者の日用品を院内に持ち込むことができなかったり、家族の面会が制限されたりしたことの影響もあったでしょう。

医療スタッフ側としては防護服の不足などの理由で、せん妄防止のためのプロトコルがあっても普段のようには実行できなかったという事情があり、それがせん妄が多く見られた要因とも考えられます。それから退院後も続く症状があり、そこではせん妄や認知機能障害があります。

米国のメイヨー・クリニックでは感染症で入院中の患者について、神経損傷の生物学的指標であるバイオマーカーを調べています(*5)。ここでは血液中の神経線維フィラメント軽鎖(NfL)というタンパク質を分析しました。このNfLは神経軸索にしかないタンパク質ですので、これが血中に漏れ出ていることは神経軸索が損傷していることを意味します。

142人の入院患者から採取した血清ではNfLは正常値よりも上昇していました。さらに、血清NfLの検出量は疾患の程度と関係していて、レムデシビルで治療された患者100人においては血清NfLが減少する傾向も見られました。このように重症度、治療の有無と神経損傷には関係があり、感染すると神経系に損傷を与えることの間接的な証拠になります。逆にNfLが低ければ、レムデシビルの治療が有効であることが実証できます。

(*5)Prudencio M, Petrucelli L. Serum neurofilament light protein correlates with unfavorable clinical outcomes in hospitalized patients with COVID-19. Sci Transl Med. 2021 Jul 14; 13(602): eabi7643.