株式市場では、新しい株式インデックスである“JPX400”の算出が始まった。JPX400は、自己資本利益率(ROE、純利益を自己資本で割った指標)などが高い企業で構成される。企業が借り入れを増やすとバランスシートに占める資本金の割合は低下する。他の条件を一定とした場合、ROEが上昇する。アベノミクスは金融を大胆に緩和して企業などに借り入れを促した。それによって需要を増やそうとした。そのために財政政策も機動的に運営された。
米経済の回復で円安の流れは強まり…
大きな影響を与えたのがドル/円などの為替レートだ。2011年10月末、ドル/円は75円32銭の史上最高値を記録した。その後、徐々に円安が進んだ。当時、米国ではデジタル化の加速やシェールガス革命によって労働市場が回復しつつあった。米金利の先高観は高まった。そこに金融緩和を重視するアベノミクスが加わった。日米の金利差拡大観測は高まり、外国為替市場で円キャリートレードが急増した。
このようにして円安の流れが増幅された。その後も米国経済は緩やかに回復した。インフラ投資や不動産市況の高騰などを背景に、中国経済も高成長を維持した。その状況下でわが国の企業は海外進出を加速し、海外での収益が増加した。海外に保有する資産の評価額や海外子会社からの受取配当金が円安によってかさ上げされた。
世界的に注目されたアベノミクスの功罪
アベノミクスは一時、わが国経済にプラスの効果をもたらした。財務省が公表する“法人企業統計調査”からそれが確認できる。2013年4~6月期以降、本邦企業全体(金融除く)で営業利益の増加が鮮明化した。
製造業に限ってみると、2012年度各期の前年同期比増益率の平均値は8%だった。2013年度は45%に跳ね上がった。アベノミクスが円安を勢いづけ、企業業績がかさ上げされた。それが、賃上げを支えた。安倍総理自ら主要企業のトップを官邸に招き、賃上げを求めた。それを“官製春闘”と呼ぶ。
その結果、実質ベースで賃金水準は緩やかに上昇した時期があった。アベノミクスは、観光産業にもプラス効果を与えた。2020年までに2000万人の訪日旅行客数を達成することをアベノミクスは掲げた。2015年にその目標は事実上達成された。円安と、わが国の観光資源の魅力向上によるインバウンド需要の増加は、地方創生に大きく貢献した。訪日旅行客数はアベノミクスが達成した数少ない目標だ。