世界の変化に対応する力を残したとはいえない

先例がある。独シュレーダー政権の労働改革だ。主たる内容は、解雇規制緩和、職業訓練強化、失業給付期間の短縮だった。企業は人員を調整し、事業運営の効率性を高めやすくなった。解雇された人は職業訓練を受け能力向上に取り組んだ。失業保険の給付額の引き下げなどが就業を促した。経済全体で、新しい取り組みが増えた。それによってドイツ自動車産業の競争力が高まった。その後、メルケル政権は中国の自動車需要を取り込んだ。こうして1990年代に停滞したドイツ経済は復活を遂げたのである。

現時点でアベノミクスを総括すると、一時的に好循環をもたらしたことは大きい。安倍氏は、金融・財政政策によって景気を支えた。その上で、労働市場を改革し、経済全体で好循環を持続させようとした。

しかし、労働市場改革は進まなかった。労働市場の流動性の向上などは、人々の生き方に直接かかわる。それだけにインパクトは大きい。結果として好循環は続かなかった。ウクライナ危機などによって脱グローバル化は加速する。アベノミクスがわが国経済に、急激な環境変化に対応する力を残したとはいえない。長期的に見た場合に必要なのは労働市場を中心とする構造改革だ。それ無くして本当の成長は難しいだろう。

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