この動画は、アメリカの郊外とみられる街の車道で撮影されたものだ。馬に乗って悠々と登場したアレクサンダー氏が、路上で待っていたガールフレンドに「ディナーに行こう」と声をかける。彼女は「私の車は?」とあっけにとられた様子だ。
「ガソリンが高いから売ったよ」と返す氏に、彼女は「新車だったのに⁉」と動揺を隠せない。一方の氏は、「だってガソリンの値段は跳ねるように上がっている。……馬だけにね」としたり顔だ。最終的に女性が諦め、レストランに馬で向かうことを決心した。
ジョークが真実味を帯びて大流行
車を手放して馬に乗り換えるとは奇抜なアイデアだが、あまりにかさむガソリン代を考えれば、本当に馬に乗り替えた方が安くつくのではないかとの思いさえ頭をよぎる。インフレの不安をユーモラスに表現した点で視聴者の琴線に触れたのだろう。
視聴者からは、「同じことを考えていたよ。馬を買いたいとね」とのジョーク交じりのコメントや、「確かにこれしか方法はないかも」といった反応が寄せられた。
芝居がかった口調からも明らかだが、アレクサンダー氏は米ニューヨーク・タイムズ紙の取材に対し、動画の内容はあくまでもフィクションだと念を押している。舞台裏を明かせば、馬はInstagramのフォロワーから借りたものであり、彼女の車を勝手に売ったりはしていないとのことだ。
多くの視聴者もフィクションだと承知で「いいね」を送ったとみられるが、こんなジョークが得もいわれぬ真実味を帯びて大流行するほど、いまのアメリカの物価上昇は異常なレベルに達しているともいえるだろう。
給料がガソリン代に消える、あるウエートレスの苦境
ガソリン価格はTikTokの世界にとどまらず、車移動が基本のアメリカ郊外の生活に打撃を与えている。米ルイジアナ州の地方紙「アドボケート」は、イリノイ州でウエートレスとして働く25歳女性の声を紹介している。彼女はガソリン高に悩む市民のひとりだ。
彼女は仕事のため30分ほど先のレストランまで車を走らせなければならないが、決して収入の高くない職業柄、ガソリン代は手痛い出費なのだという。
少しでも節約しようと、彼女はアプリを駆使して近隣の3つのガソリンスタンドを比較し、価格に特典を加味した最安値を吟味している。さらに、通勤ルート上にある田舎の小さなスタンドにも寄り、アプリでは表示されない価格もチェックするという念の入れようだ。涙ぐましい努力により節減できる金額は、1回あたり約80ドル(約1万円)かかる給油のうち、わずか2ドル30セントほどだ。